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思い出した途端、どうしようもない恥ずかしさが襲い、思わず布団を頭からかぶり込んだ。
だがそれによって、自分の身なりが制服のシャツ一枚である事にも気付いてしまい、羞恥心の逃げ場を絶たれてしまう。
とにかく、服をちゃんと着なければ、とベッドから再び腕を伸ばした時だった。
「何してるの?」
ハッとして振り返ると、長いまつ毛を持ち上げてこちらを見ている瞬がいた。
眠そうにしている顔が、男なのに艶やかに見える。
一稀は慌てて顔を枕に埋めると、呻いた。
「着替えようと思ったんだよ。頼むからあっち向いてくれ」
「なんで?やだ」
いつの間にか、瞬の大きな手がショーツをイタズラに触っている。
一稀はその手をつねった。
「バカ、やめろ」
「ひどい」
ムッとむくれる瞬に、彼の不機嫌の原因がよくわかっている一稀は、苦々しい思いで言った。
「ごめん、申し訳ない気持ちはちゃんとあるんだよ…」
「出来なかったから?」
ハッキリと言われ、うぐっ、と口ごもる。
土壇場で逃げ出した自分が恥ずかしくて仕方なかった。
「別に俺は怒ってないよ?そんなに気にしなくても」
「だって、ほら、その…」
「あぁ、覚悟出来てるとか言ってしまった手前、恥ずかしいよな」
「……お前、やっぱり根に持ってるだろ」
じっとりとした目で睨むと、瞬はふっ、と笑った。
「だから怒ってないって」
「ほんとに?」
「うん。好きな子の嫌がることはしたくない」
赤くなって目を伏せていると、瞬がぐっと距離をつめて、耳元で囁いてきた。
「それに、一稀が女の子だって、ちゃんと確かめる事は出来たから」
顔が、カァッと燃えるように熱くなる。
狼狽えていると、瞬が当然のように組み敷いてきた。
「キスしていい?」
答えるより先に瞬の顔が迫り、そっと優しく口付けられる。
ついばむように何度も唇を吸われていると、だんだんと頭がぼんやりとしてきた。
「しゅん、ちゃ…、もうやめ…っ」
口付けの合間に抵抗していると、今度は唇が首筋を這った。
シャツのボタンを外し始めたので、今度こそ一稀は強く抵抗する。
「ま、待て、す、するのか!?」
「んー、どうしよっかな」
とぼけながらも、瞬の手が一稀の小さな膨らみに触れる。
思わず変な声が出そうになって、慌てて飲み込んだ。
「だめだって瞬ちゃん!そろそろ家の人が帰ってくるだろ!?」
「大丈夫、美里が帰ってくるだけだから」
「全然大丈夫じゃないだろ!」
瞬の頭が、ずりずりと胸元へ下がって行く。
「んー、後もうちょっと」
「バカ」
一稀は心底呆れながらも、胸に顔を埋めて甘える彼の髪を、そっと優しく撫でた。
サラサラとした髪を指ですくいながら、ふと思いを巡らせる。
(不思議だ。あの頃の二人じゃ考えられないような事してる。でもきっと、根っこにある気持ちは変わってない。愛しいって気持ちだけは、あの頃のままなんだ)
昔と変わらないつむじを見ていると、なんだか可笑しくなって、ふっ、と笑ってしまう。
そんな一稀に気付いた瞬が、不思議そうに顔を上げた。
「どうかした?」
「ううん、なんでもない」
クスクスと笑う一稀に、瞬はあきらかに面白くない顔をした。
「余裕だな。やめてあげようと思ったけど、気が変わった」
「え!?ちょ、ちょっ…!」
慌てる一稀に、瞬はニヤリとイタズラに笑った。
昔好きだったその純粋な目の輝きは、すっかり色々と見知った大人のもので、一稀は彼を侮ってしまった数分前の自分をひどく後悔したのだった。
「本当の意味で、男の子にさよならだ」
「だから、さよならしてるってば…!!」
美里の邪魔が入ったのは、それからほんの数秒後のことだった。
さよならboy 終わり
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