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扉を開くと、ミステリが死んでいた。
額から血を流して仰向けに倒れており、およそ一瞥して死んでいると確信できる程度には見事に死んでいた。傍らにはもともとこの部屋にはなかった壷が無造作に転がっていて、血痕が付着していることと合わせてみても明らかに凶器である。死人であるところのミステリの顔にはなぜ自分が殺されなければならないのか、とでも言いたげな驚きの表情が浮かんでいた。
つまり、事故ではなく殺人。
なかなか晩餐の席へ降りてこないミステリを心配して部屋の前へと集まったジャンルたちは、数瞬の沈黙の後にようやく状況を飲み込むと各々が思い思いにリアクションを取りはじめた。
パニックホラーは万人が想像するような典型的な悲鳴を上げ、官能小説は混乱に乗じてさりげなくラブコメの腰に手を回し、時代小説は「もう少し面白味のある死に方のほうが」などと言いながら死体を捏ね繰り回そうとしてハードボイルドに壁へ叩きつけられた。
「迂闊にホトケに触るな」
ハードボイルドは苛ついたように吐き捨てると、ふぅっと息をつきながら髪をかき上げた。
「おい、こいつは一体どうなっている」
「どう見てもミステリの死体ですね」
どこへ投げかけたわけでもないハードボイルドの問いにそう応えたのはこの集まりの主賓であるところのSFで、さすがに見てきた死体の数が違う。地球全てを滅ぼしたこともあるSFにとってミステリ一人の死体など誤差に等しい。
「そう驚くことでもないでしょう」
「いや、そういうことじゃねえ」
そんなあくまで緊張感に欠けるSFを手で制すると、見て分かんねえのかとハードボイルドは扉を指差し、
「俺たちが返事のないミステリを不審に思ってここへ突入するまで、この扉は完全に閉じていた。だのに冒頭でミステリが死んでいる。ということは、こいつはつまり密室殺人だってことであり、もっと単純に言い換えれば、」
ハードボイルドはそこで一呼吸溜め、周囲の面々に鋭い眼光を飛ばす。
「ミステリだ」
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