釣り

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「あそこに男がいるよ!」 「独りで何してんのかしら?」 「行ってみようよ!」  嬉々として小娘たちが駆け出した。  そこは荻の白い穂が目に付く湖畔で彼女らは背後のこんもりと樹木が生い茂る森から飛び出して来て磯辺でぽつんと床几に座っている男に向かってゆく。  そんなこととは露知らず男は花鳥風月を楽しみながら脇目もふらず釣りをしていた。  そこへ若い女たちの笑い声が近づいて来たものだから心の平安を失った男は、度も失って、そわそわし出し、釣り竿を握る手が強張った。 「こんなところに若い娘が・・・」そんな思いで心の中が一杯になって怪訝な面持ちとなり、甚だ心外に思われた。
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