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少年が目を覚ましたのは、薄暗い倉庫の中だった。
「……っ」
体を動かそうとして、両手両足が縛られていることに気づく。
一体、何があったんだろうか。
冷たいコンクリートの床に体を横たえたまま、ゆっくりと記憶をさかのぼる。
普段だったら目覚めることのない真夜中。
物音に気付いて、ゆっくりと階段を降りて、そこで、確か……
「っ、」
ぼんやりとしていた頭の中で、その記憶を思い出した瞬間、その場面だけが鮮明に蘇る。
床に一筋流れる真っ赤な液体。
それが施設長の体から溢れる血だと理解した時には、もう何者かに捕らえられていた。
施設長はどうなったのだろうか。それに、きっと自分を助けようとしたのであろう、兄のような彼は。
「はぁ、遅れるってなんだよ。こっちも急いでんのによォ」
最悪の事態を想定して早鐘を打つ胸をなんとか落ち着けて気を紛らわせようと、必死に前で結ばれた手の縄を解こうとする。
その時、ガラガラと音を立ててシャッターが開き、一人の男が入ってきた。
びくりと動きを止めて、つられて息まで止めると、鋭くなった聴覚が、大きな足音の向こうに小さな波音を捉えた。
「それに、あの施設ではもう無理そうだしよォ」
「あぁ、それは本当に残念だよ。せっかく子供の人数も部屋の構造も時間をかけて把握したっていうのに」
後から続いて入ってきた男の声に、先ほどの二人だと確信する。
嘘だと言って欲しかった。
しかし、やはりその男は、優しかったはずの、いつも笑顔を絶やさないおじさんだった。
「あ?起きたか?」
動揺が出たのか、微かに物音を立ててしまった。
男が近づいてくる。
「俺たちを悪く思うなよ?あのババァが起きてるのが悪いんだぜ?」
コツと、男の靴が手に当たる。
「あぁ、後は……あの坊主もな」
ジャリという音と共に男の体の向きが変わるのを目線で追うと、先ほどまでは見えなかった倉庫内が月明かりで照らされているのが分かった。
今は、何時なんだろう。外が暗くて、月がこんなに綺麗ってことは……
「…………ぇ?」
口から腑抜けた声が漏れる。
心臓が一瞬止まったようだった。
シャッターのそばにある、黒い二つの袋。
一つは大きくて、もう一つはその半分くらいの大きさで。
直感的に分かってしまった。
「ぁ……、え」
カラカラに乾いた口から言葉にならない声を吐き出した後のことは、もうよく覚えていない。
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