16.5話 開発機動部3課の年末

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12月31日。この日は18時から開発機動部合同の忘年会が予定されている。 園部は早々に仕事を切り上げ他部署の課長らとさっさと一杯目を飲み始めているらしい。皆も仕事を切り上げて続々と会場へ向かう中、小柴はギリギリまで悪戦苦闘していた。残ってくれた水沢と早水に手伝ってもらいながらやっとのこと仕事納めし、慌ただしく戸締まりをする。 「うう・・・すみません、僕の計算ミスがなければもっと早く出られたのに・・・」 「早水さんが途中で気づいてくれて助かったわ」 「空也連日忙しかったもんね、仕方ないよ」 三人は早足に会場へと向かう。汗でじっとりと火照った小柴の身体は、冷たい向かい風で冷まされて心地が良い。気持ちも少し落ち着いた。 水沢が研修に行ってからというものの、怒濤の毎日の連続だった。 仕事に忙殺され、香住とまともに話すことはおろか13街区の件を自分の中でゆっくり思い返す時間もなかった。 「(確かめなきゃいけないことはたくさんあるのに・・・自分の仕事だけで手一杯だもんなあ)」 会場は徒歩10分ほどの場所にある結婚式場の宴会スペースを貸切とのこと。 到着すると、会場の中は円卓がびっしりと並び、既に開発起動部総勢80名ほどの人間が集まってがやがやとしている。いつもの手狭な居酒屋とは違い、かなり広いスペースと大勢の人の熱気に小柴は少々あてられた。もたもたと荷物を置いているうちに、水沢と早水はさっさと着席していた。すでに席がほぼ埋まる中、空席を求めて小柴が辺りを見回していると、こちらに手招きする人物がいた。 「咲姫さん!」 「小柴くん!久しぶりぃ~!小柴くんのために席取っといたよ」 笑顔で手を振る咲姫の隣に着席することができた。 「ありがとう、助かったよー。咲姫さん、元気にしてた?」 「うん!ご覧の通りピンピンしてるよ!小柴くんは相変わらず、忙しそうだね」 そうしているとすぐ会が始まり、冒頭の挨拶は一課の木村課長が行った。乾杯の音頭は二課の池尻課長がとり、開発機動部忘年会は無事スタートした。 「あ~、退屈な挨拶だったねー。木村課長、朝礼も無駄に長くてほんと毎度勘弁して~って感じ」 「おい咲姫、思い切り聞こえているぞ。口を慎め」 ぶーたれる咲姫の隣の人物が、強い口調で諫めている。彼はたしか、咲姫の直属の上司だ。 「増山さんだって飽き飽きしてるってよく言ってるじゃないですか」 「こういう所で言うんじゃないと言ってるんだ」 「あ、二人の時ならいいってことですか?」 「おい!」 上司の顔がかあっと赤くなる。小柴がおや、という顔で眺めていると、咲姫が耳元でこそっと耳打ちしてきた。 「実はね、この増山係長と今付き合ってるんだ~。周りには隠してるから内緒ね」 「へええ!どうりでなんかいい雰囲気だなって思った。話ゆっくり聞かせてよ」 「うん!今度早水さんも一緒に同期会しようよ!」 「いいねいいね」 乾杯のスパークリングワインをぐいっと飲むと、ピリピリと心地よく喉が刺激される。少し経つと、疲れてぐったりした身体にアルコールが染み渡り、ぽかぽかと内側から熱を感じてきた。今回はコース料理で、一品目はオードブル三種が運ばれてきた。ウェイターから説明されたが、聞きなれない単語の羅列でいまいちピンとこない。透明なゼリーに包まれた何かを口に含むと、なんとも不思議な味わいがする。 「3課は社内恋愛ないの~?若い人多いから色々ありそう」 「いや~うちは全然ないな」 「そうなのぉ?小柴くん、水沢先輩とか香住先輩とかとめっちゃ仲良しじゃん!」 「ん~、ご飯とか飲みはよく行くけど、一緒にいる時間が長いだけでそういう雰囲気じゃないな」 「水沢先輩はめっちゃ美人だしバリキャリだし、女子も憧れちゃうくらいかっこいいよ~?」 「そうだけど・・・恋愛的に好きとかは別かなぁ。意外とがさつで抜けてて、可愛らしい所はあるけどね」 「香住先輩は素行不良っぽいけどイケメンで仕事はできるし、弄ばれたい女子は多いよ~?」 「へええ?そうなんだ・・・。人使い・金遣い・女遊び酷いし意地悪いし・・・けど案外優しい所もある、かな」 「そうだ早水さんは?!可愛くて頼りがいあって将来有望エリートな幼なじみがいるじゃん!」 「舞ちゃんは大事な幼なじみだよ。恋愛感情とかいうよりは・・・家族に近い感じかな。それに、舞ちゃんにはいい感じの人がいるし」 「えっえっ!そうなのお?!だれだれ?会社の人?」 「今度の同期会でね。あ、咲姫さん次なに飲む?一緒に頼んどくよ。すいませーん」 二品目のじゃがいものスープは口当たり滑らかで、その優しい味わいにほっと安らぐ。話し込んでいるとあっという間に次々と料理がくるので、あわてて料理をかきこむ。 「小柴くん可愛くてモテるし優しいから、絶対なんかあると思うんだけどなぁ」 「全っ然モテてないよ。仕事で毎日瀕死だし、声もかけられたことないし」 「社内に小柴くんファンクラブあるの知らない?小柴くん広報にも載ったし会社ではちょっとした有名じゃん。見た目はキュートで可愛い童顔、中身は期待のエースパイロット候補だって♪開発機動部内にもファンいるみたいだよ」 「へ?!そんな話聞いたことないよ!誰かの間違いじゃないの?」 その時、小柴はとんとん、と肩を叩かれた。振り向くと、それは隣席の若い男性だった。面識はなかった。 「あの、きみ小柴くんだよね?俺4課の飯塚っていうんだけど・・・この前ウチに来て一緒に仕事してたよね。ほら、整備で!」 「あ、はい!そうです。その節はお世話になりました」
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