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返り討ち。
「………ねぇダーク」
「済まない悪かった心から反省している」
「今日は昼間バーベキューするからほどほどにね、って私あれほど言ったわよねぇ?」
「聞いた確かに聞いた本当に申し訳ない自分でも何故歯止めが効かないのかといつもいつも心の底で自分を殴り付けているいやむしろ殴ってくれ」
二日目の朝である。
私の目の前にはノンブレスで謝罪を続ける、パンツ一枚で正座をしている極上のイケメン………つまり私の旦那様がいた。
ダークが絶対落ち込んでるだろうと思って、恥を忍んで一緒にお風呂に入って慰めた。
ダークも漸く元気になってくれたと安心した。
………までは良かったのだが、何故そこから怒涛の3回戦に突入してしまうのかこの人は。
「俺のリーシャへの愛情はこんなものじゃないんだ!!」
とか一回で本当に十分伝わったからと言っても聞きゃぁしない。
その結果、ただでさえ昨日の筋肉痛が癒えないままだった私に、寝不足と更なる筋肉痛が襲い、正直歩くのもメンテナンスしてないロボットのようである。
これから朝食に降りなくてはならないのに。
「………私が断れないのを分かっていての確信犯よね?」
ダークが頭を上げ、私を見てそっと視線を逸らした。
「………帰ったら1週間はエッチはしませんからね」
「そんなっ!せめて3日にしてくれリーシャ!!」
「ダークは『我慢する』という事を覚えましょう。ダークの体力が10とするならば、私の体力は3位なの。全く違うのよ」
目を潤ませるダークがこれまた犯罪的な色気と美しさで、思わず許してしまいそうになるが、流石に私もここは心を鬼にせねばと気合いを入れる。愛情と体力はイコールではないのだ。
「もしこの程度の事も守れないようなら………」
「なら………?」
「子供たち連れて1ヶ月は実家で仕事しながらのんびりさせてもら」
「分かった1週間でいい!!」
食い気味に返された。
ダークが何となく大型犬のように思えて来てしまった私は、さしずめムツゴ●ウなのだろうか。
「お手」
自然に言葉が転がり落ちてしまい、首を傾げたダークがよく分からないまま私に手を乗せてきた。
………くっそ可愛いわねちょっと。
「はいよく出来ました」
ワシャワシャと髪の毛をいじると、よく分からないまま、私の怒りが収まってきたのだと感じて胸元にすりすりしてきた。
うちの旦那様は本当に可愛すぎてどうしてくれよう。怒りが続かない自分も反省しなくてはなるまい。
「分かったらさっさと服を着てちょうだい。朝ご飯食べに行くんだから」
「分かった!すぐ着替えるからっ」
急いでハンガーから服を外していそいそと着替えるダークを見て、いけない私も着替えないと、とギクシャクした動きでワンピースに手を伸ばすのだった。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
「ママはね、ちょっと昨日はしゃいで疲れたから、午前中は良い子で遊んできてね~」
朝食の後、一休みして海へと繰り出した私たち。私はバーベキューへの体力を繋ぐため、砂浜で日焼け止めを塗って大人しくしている事にした。
「あい」
「後で遊ぶよねママ?」
「勿論よー、バーベキューの後にね」
うん、身体が動けばね。
「リーシャ様に荷物番をお任せするなどわたくしには無理でございます」
頑なにルーシーが自分も残ると言い出したので、
「ルーシー、貴女そんなこと言って昨日も全く遊んでないじゃないの。これは主人の命令よ。子供たちと遊んでらっしゃい」
と強引に送り出した。
本日も晴天なり。
私はぼーっと海でクラゲ化してる子供たちや、ガオーっと襲いかかる振りをしてるダーク達や、ちゃぱちゃぱとビニールボートに乗って彼らの側を楽しそうに漂っているルーシーを眺めながら、
(のどかよのぅ………)
などとご隠居モードでちびちびと冷たいお茶を飲みながらくつろいでいた。
「へいかーのじょっ♪」
「間に合ってます」
「こんなに美しいお嬢さんに会ったのは初めてです。是非結婚を前提としたお付き合いをーー」
「人妻です子持ちです」
「貴女に熱い眼差しを向けられたら天国へ行ってしまいそうだ」
「向けることはないので現世を全うして下さい」
つばの広い帽子でなるべく顔が見えないようにしているのに、なんでか声をかけてくる兄ちゃん達が湧いてくるのは困ったものだったが。
前世なら『こんなにモテるなんて私今日死ぬのかしら』とか思っていたけど、こっちでは和風顔が人気だから仕方がないのだ。
土偶なんだと何度も言ってるでしょうが。
ああ、別に言ってはいないか。
そして、ヒッキーな私は、のべつまくなしに赤の他人に話しかけられる状況がひどく辛い。
家族と友達だけ居れば私は幸せなんだから近づかないでほしい。
中には自分をイケメン認定してる薄口しょうゆ顔の人が、俺に声をかけてもらって光栄だろという勢いでしつこく私を誘うのはもっと腹立たしい。
「僕の家の別荘、プライベートビーチがあるんだ。君なら特別に入れてあげるよ」
「興味ありません」
「またまたー素直じゃないね。またそんなツンと澄ました顔も綺麗だけど」
「本気で全くチリほどの興味もございません」
「そろそろお昼だね。お腹すかない?専用のシェフに君にあう繊細な美しい料理を作らせるよ」
「ガサツで大雑把ですし昼間は家族と楽しいバーベキューですのでご遠慮します」
いい加減しんどくなってきた辺りで、ダークが物凄い速さで戻ってきた。
「私の妻に何か?」
背後に阿修羅を背負っているようなダークの佇まいにしつこい自称イケメン男は消えていった。
「リーシャ、だから言っただろうが」
「………きゃいんきゃいんっ」
怒るダークに私はしがみつく。
今回は私の美貌(笑)を舐めていたが、ダークは私に弱いのはわかっている。甘えて誤魔化してしまえ。
「くっ、………可愛すぎるけどこれだけは甘やかさないぞ。だから一人は駄目だとあれほどっ」
「きゅーんきゅーん………ダークがいて良かった。これから気をつけるわ。もうほんとすっごく愛してるっ!」
「俺だって死ぬほど愛してるさ!………だがな、やはりお仕置きは必要だ。
今朝の話は反省の意味を込めて3日に短縮する事で許す。
これでフェアだろう?リーシャには『反省を形にする』という事を覚えてもらわないと。
はい、分かったら、お手」
「ぐっ………くぅぅぅーん………」
てし、と仕方なしにダークの掌に手を乗せた。
近頃ダークは『返り討ち』というスキルを身につけてしまい、油断すると思うように物事が通せないのが私の秘かな悩みである。
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