1818人が本棚に入れています
本棚に追加
/680ページ
第1章 現在・僕
風呂上がりに、冷蔵庫から冷たい缶ビールを一本取り出し、リビングのソファに腰を下ろして飲んでいると、妻の美穂が、パジャマ姿でやって来て、僕の隣に腰を下ろして言った。
「ねえ、私、妊娠したみたいなの……」
「ん? 何だって?」
僕は、美穂の言葉が上手く聞き取れず、思わず尋ねる。いや、正確には、上手く聞き取れなかったのではなく、上手く理解できなかったのだ。
「ねえ、私、妊娠したみたいなの」
美穂は、もう一度、同じ言葉を、先ほどよりもはっきりとした口調で繰り返す。今度は、美穂の言葉がはっきりと聞き取れたし、はっきりと理解することもできた。
だけど、僕は、念を押すように、
「もう一度、言ってみて?」
と、美穂に言う。
「だから、私、妊娠したみたいなの」
美穂は、さらにはっきりとした口調で繰り返す。
もはや、僕は、美穂の言葉を、聞き間違えようもなかった。美穂は、僕に、妊娠したと言っているのだ。
「は? どういうこと?」
僕は、手に持っていたビールを、目の前のテーブルに叩きつけるように置き、冷たく言ったテーブルに叩きつけた衝撃で、缶の飲み口から、ビールが跳ねてこぼれる。だけど、今は、そんなことに構っている場合ではない。
最初のコメントを投稿しよう!