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「え、そうなの?」
「そうですよ。ここからは神にお仕えしていた明君の方が詳しいでしょう」
そう言うとマスターは任せましたよと言わんばかりに、笑顔で視線を送り、そのまま厨房へ戻って行った。
「私、そんなの知らない。どういうこと?」
厄介な優希を任せていったものだと、肩を落としながら溜息をついた。
こうなると梃子でも動かないと、僕は知っていた。
「そうだね。新年というのは元々、この世の世界と、死者の世界の境目が特に曖昧になるんだ」
ふんふん、と首を縦に振り、目を見開いてみせる優希の圧に気圧されながら続けた。
「例えば正月はみんな里帰りをして家族で顔を合わせるよね。これって何回忌とか、葬式とよく似てる文化だと思わない?」
「うーん。あんまり葬式はわからないけど、確かに何回忌とかだと、親戚とかも揃うね」
「そう、これはそもそも新年は祖先などを迎えるために家族で集まるっていう、日本の民族文化なんだ」
既についていけてなさそうに頭を悩ます優希。
それでも続ける。こういうのは止まっていては時間が幾らあっても足りない。
「現在の御正月がお祝いごとになったのは、明治時代辺りでね、それまではそこまで明るい文化ではなかったんだ。お祭りなんかはあったけどね」
「うーん。わかるような、わからないような」
「だから霊的なものなんかは今はこちらに戻る準備をするから、一時静かなんだ。御正月まではね」
「お正月にたくさん現れるんだね、家族に会いにくるために」
「そう、そして、御正月に招かれざるものも訪れるから、僕達はそれまでお休みって感じかな」
わざとらしい苦笑で、御正月が鬱になるものだと言うのも悟らせる。
正直、御正月は毎年のように事件、怪奇が多く見られる。
これらに対応するのがいかに大変か、考えたくもない。
「ってことは御正月に活動なの? 私も家族で集まるからなぁ」
あまりに暢気なものだから、また溜息をこぼしてしまいそうになった。
はっきり言って、自分の身を守るので精一杯な程、邪悪な穢れを放つものも見たことがある。
優希を連れ添っていては、動きたいように動けないのは目に見えていた。
「心配せんでも、隠様も出動するんでね、あんたはお呼びじゃないのさ」
隠がひょっこりと窓から煙を放ちながら顕れて、猫の姿で机へ足をつけた。
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