幼馴染

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福祉の人ってのは児童相談所の人の事だよ。僕のお母さん、もう帰って来ない」 「なんで帰って来ないんだ」 「たぶん、刑務所に入るんだと思う。前もそうだった。だから僕は施設に入れられるんだ」 「施設?」 「そう、施設。児童保護施設」 「児童保護施設って、それはどこにある」 「姫路にあるらしいよ、ここから車で二時間位だって」  僕は食べ終えた弁当の入れ物をクシャリと両手で潰し博恵に目を向け、そしてこの世で一番悲しい事を彼女に告げる。 「もう、会えなくなるんだ、博ちゃんと」  彼女が僕と会えなくなることを悲しむ、僕はそれを期待していた訳じゃない。 それは自分の切なく悲しい感情から生まれる必然的な想像であり、その想像によれば彼女も悲しむものだと自然にそう思えた。 だから僕は自分の感情に従がい、目に涙を浮かべながら彼女に別れを告げた。 「そこに行けば、友則は、ちゃんと育ててもらえるのか。ご飯は食べさせてもらえるのか」 「え、う、うん、何不自由なくって程ではなけれど、今よりは、ましな暮らしが出来ると思うよ」 「そうか、分った」  博恵はその時、確かに泣いたのだ。 彼女の目には紛れもなく涙の粒が溢れていた。 しかし、その涙の意味は、僕の涙の意味とは違うベクトルに存在していた。 「友則、俺はまだ子供だし、お前をちゃんと育ててやれない」 「博ちゃん・・・」 「俺が大きくなったらその児童保護施設とやらにきっとお前を迎えに行ってやる、だから友則、それまでは我慢しろ、俺も我慢するから」  昼下がりの白色は喩え様も無いくらい見事に、彼女が瞳に溜めた涙を美しく輝かせていた。 後を追って来た職員の怒号が遠くでしか聞こえない程それは美しく美麗で、僕はその宝石の様に美しい涙に見蕩れ、ただ立ち尽くしていた。 彼女の涙の訳を理解できないまま、ただ、立ち尽くしていた。
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