8.1

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「……っ!おい、痛い」 「知りません!僕は怒ってるんですからね!」 辰巳と翔はいま、横浜みなとみらい赤十字病院の救急外来にいる。 シオンと撃ち合った辰巳は狙い通りにシオンの手から銃を落とすことに成功したが、代わりに右肩を撃ち抜かれていた。 ホアキンがバーの扉から消えた直後に、崩れ落ちる様にして立て膝をついた辰巳を見て翔がどれほど震え上がったか、辰巳はきっと分かっていない。夥しい量の血液がバーの床に溜まって行くのを目の当たりにして、翔は慌てて辰巳の肩を押さえながら万が一に備えて待機していた救急車に飛び乗ったのだった。 緊急手術の結果、銃弾は至近距離からの発砲のおかげで肩を貫通していた。主要な神経組織や太い血管、骨の損傷も見られなかった。今は縫合手術も無事に終わって病室で安静にしている。3日後には退院できるということだった。 翔は病室で辰巳に抱きついて離れようとはしなかった。ぎゅうと抱きしめる翔の力強さに辰巳は痛いと訴えたが、翔は聞く気はない。自分を寂しがらせた罰として、もう少し痛がればいいとさえ思っている。もちろん、それも命の無事を確認できたからできることだ。 「……おい、泣くな」 「辰巳さんが悪いんです!守るって言ったのに僕をひとりぼっちにしたし、いきなり現れたと思ったら撃たれるなんて……僕がどれだけ心配したと思ってるんですか」 「ああ、悪かったよ。心配かけたのは俺が悪い。だから泣くな」 辰巳の大きな手が翔の髪をクシャリ、と撫でる。そうされると、翔の全身から辰巳への想いが溢れてきて、どうにも押さえられなくなってしまった。 今こそ、あの時の返事をする時だと本能で理解する。 「辰巳さん、僕辰巳さんが好きです。世界で一番、辰巳さんが好き。僕を辰巳さんの恋人にしてください」 辰巳は左手を翔の頬に添える。熱を持った瞳が翔を包み込んでいく。 「ああ、お前は俺の恋人で相棒だ。誰にも渡さない。お前は俺だけのものだ」 「はい……」 そうして2人は優しく、唇を重ね合った。 何度も何度も確かめ合う様に優しいキスを繰り返して、互いの熱を確かめ合う。やっと一息ついたところで辰巳の表情が急に意地悪なものに変わったことに翔は気づかなかった。 「……だけどな翔、言っておくがバーにいた間、お前は1人じゃなかったぜ。お前がバーで生き生きボーイやってたのも、ユウトとかいう若い奴とイチャイチャしてたのも全部知ってる」 「えっ……?」 「挙げ句の果てに康介に俺の愚痴を言ってキスまでされやがって」 「え、な、何で知ってるんですか?」 辰巳は不機嫌な顔で翔を見つめてくる。 「そうだな、今回の事件はいろんなことが起こりすぎだ。俺が見聞きしたことも併せて一度整理しよう。その後で翔、お前はお仕置きだな」 ”お仕置き”という不穏なワードにドキリとしつつ、翔は辰巳の話す事件の全貌に耳を傾けたのだった。
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