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店に流れる軽いジャズ。ふいに耳に届いたNAT KING COLE の「 LOVE」
あの時光がこの曲を口づさんでたっけ。好きな曲だって。
明るくLOVEを綴りながら歌う、幸せの歌。
周りの楽しそうな声も、ささやく愛も、まるで別世界の出来事のように感じた。私はぼんやり曲に身を任せた。
沈黙を破ったのは、マスターだった。
「中山さん、お冷のピッチャー、どうする? もういらないかな?」
「あ。マスターすみません……。興が醒めちゃったみたいです。
ははっ。お冷、キャンセルでお願いします……」
マスターは小さくうなずきながら、優しい微笑みをくれた。
あー。光、あたしも今、この微笑みに癒されてるよ……。
「マスター、私が光をここに連れて来た時、マスターが光に笑いかけてくれたでしょ。光ね、すごく喜んだの。
だから、良かったな、って。光が馴染めるお店って実はすごく少ないから……、ホントに良かったって……。
それなのに、こんなことになるなんて、上手くいかないよね。私が光を連れて来たから……」
もう、声を出すことはできなかった。
マスターは眉を少し下げて口元だけ笑い、そっとおしぼりを手渡してくれた。
ついでに、相原先生にもおしぼりを渡していた。
見れば、相原先生も号泣中だった。泣き虫先生め。
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