L

5/5
65人が本棚に入れています
本棚に追加
/84ページ
 帰り際、音無さんは、私に頭を下げて言った。 「中山さん、俺、光と別れるよ。  だから、光の事……、頼む。  こんなこと頼むなんておかしいとは思うけど。  軽蔑されるだろうけど、今だって、光の事を好きな気持ちは変わらないから……」  怒鳴られるの覚悟なのか、頭を上げようとしない。    本当は『綺麗ごとですよね』とか『戯言は、やめてください』とか『寝言は寝てから言え』とか……。  そんな辛辣な言葉の数々を投げつけたかった。  でももう言えない……。  私だって共犯者だもの。私達は罪を共有している。今更自分だけが正義でいることなんて、できない。  私はせめてもの思いで、言葉を放り出した。 「もし、光が我慢して音無さんに文句の一つも言わずに終わるようだったら、代わりに私が、あなたを糾弾してあげますよ」    音無さんは、神妙な顔で小さく頷いた。  その顔を見たら、少しだけ余裕が持てた。だから―― 「こちらこそ、相原先生をよろしくお願いします。あんなんでも一応、うちの大事な作家さんなので」  そう言って、ニヒルに笑って背を向けてやった。
/84ページ

最初のコメントを投稿しよう!