100カウント

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「突然で悪いんだけど」 見ず知らずの声を聞いたのはいつもかけている目覚ましが鳴る直前だった。 ケータイのアラームが6畳の部屋に鳴り響く。それを止めずに枕元に現れたそれを見る。 よく出来た夢だな。なんてまだ寝ている頭でそれを見つめているとそれはまた口を開いた。 「……鳴ってるけど、もしかして聞こえてない?」 抑揚のない声だったが小馬鹿にされているのは分かったので、枕元のケータイに手を伸ばした。その音は親指一つで止まった。よく出来た夢だなと思いながら再び布団に潜り込む。 「……え。なんで鳴らしたのさ。起きるためじゃないの?」 起きるも何もまだ起床時間ではない。これは夢に違いないのだから。 枕元にいきなり見ず知らずの人物がくるだなんておかしな話じゃないか。というかなんで枕元。まるで死神みたいじゃないか。 そんなことを呑気に考えられるあたり、十分寝ぼけている。 その寝ぼけた耳に、平坦な声とは別の音が入ってくる。 部屋に置かれた小型のテレビの音だ。聞き慣れたニュースキャスターの声が聞こえてくる。その声がコーナー名を述べる。ちょうど起床時間から始まるコーナーだ。 「え」 掛け布団を押しのけながら上体を起こす。テレビ画面の左上に表示される時間は起床時刻から3分ほど進んでいた。 「……あ、起きた? 確か、学生さんだよね。大学生。授業まずくない? やばくない?」 ぱちりと目が開いても例の声はなくならない。 先程見た枕元を見ると、その声の主は変わらずそこにいた。 「何時から授業か知らないけど、今時間ある? 説明しときたいんだけど」 寝ぼけたような声はこちらの返事を待たずにのんびりと話を続ける。 「まぁ、大体の人は俺の名前聞くと悟るんだけどね。ってことで、俺、死神です」 こいつのいう大体の人が悟ったのはやっぱりまだ夢を見てるんだなぁってことじゃないんだろうか。 ◇ 「死神ってあれだろ? 死期が近づいたら出てくるっていう」 「うん、そう」 「……つまり、俺は死期が近いってことか」 「うん、あたり」 「……どのくらいだ?」 「あと100だね」 100日か。 1年が300日以上あることを考えると十分短いが、てっきり1ヶ月とか言われてしまうのかと身構えていた身からするとその数は大きく聞こえる。何も安心できることはないが、執行猶予の幅に一つ息を吐く。 「あと、100回行動したら、キミ死ぬね」 「……」 なんでそんな分かりにくい死期の知らせ方なんだ。 100回? 行動? その行動の範囲を言ってくれないとなかなか困る。それが呼吸も含まれるんだったら今すぐ死ぬことと変わらないじゃないか。 「え。俺がキミの呼吸カウントする性格に見える?」 それがそう言い出すまで、こちとら死神に性格があるとすら思ってなかったんだが。 じゃあ何を基準にしてるんだ。 「俺基準かな。あ、今日の起床はノーカンね」 ごろごろと空中に寝そべっているが、これで多分勤務中なんだろう。 俺にはこいつが死期を知らせる気はさらさらないと思うんだけどな。 「……聞きたくはないんだけど、俺の死因は?」 「——地震で建物の下敷き、とか。どう?」 どう? ってなんだ。 いいよって答えたらこいつは俺を殺すために地震を起こせるんだろうか。 ……それ、死神か? ただの神じゃないのか。 「ちょいちょい、キミ、ケータイで『しにがみ』って変換してみ?」 「……」 神って字を使ってるだろう? ってことか。 俺の喋ってない独り言に口を挟んでくるあたりから察してたよ。 俺は即座にケータイの電源を切った。 というか、会話はカウントされるのか。今電源切ったのはどうなのか。 「カウントしてほしい?」 なんで頷くと思ったのか逆に聞きたいね。 ◇ その日俺は学校をサボった。 つまり一日中、死神と名乗る男と同じ室内でだらだらと過ごしていた。 聞くに、この男は俺について来たりはしないらしい。いや、ついて来て欲しいとは毛頭思ってなかったが。 ついてこない状態で、学校にいる間に100数えられてしまってはなんだか困る。 『なんだか』というのは、俺がいまいち信じきれてないからだ。 どれを不審に思ってるかというと、そりゃもちろんなにもかもだ。死神とか名乗るこのグータラしている輩のことも、俺がもうじき死ぬらしいということも。 後者の方はともかく、前者の方は妙な信憑性があるにはある。 だって宙に浮いてるし。 ずっと浮いてるのだ。寝転がる時も座ってる時も。立って歩くどころかベット脇から動いてないのでその二つぐらいしか行動してないが。あとは話すぐらいだ。 「ご飯食べないの?」 カウントしないであげるから作りなよ、と自称死神は寝そべりながら。 結局、今日は何一つカウントされていない。 すべてこいつの「ノーカン」という気まぐれの一言に左右されている。 「……」 とりあえず、今日は何もしなかったが明日は学校に行こう。 明日の授業はテストで成績を決めるものだからノートを取らないと。 「何作るの?」 「……」 俺はキッチンの周りに置いてあるものや冷蔵庫の中を確認して、あれやこれやと候補を挙げたが最終的に冷凍庫を開けた。 だって包丁使ったこととか鍋使ったこととかをカウントしてないとは言っていない。信用はしていないものの、死にたがりというわけではない。 「キミ、もしかして料理できないの?」 ある程度は出来る。 「じゃあ作れば良いのに。味気ない」 「死神は味覚あんのか?」 「ないんじゃない。確認したことないけど。逆に聞くけど、見たい? 死神がほっぺた落ちるわーとか言ってるところ」 死神自体見たくないんだが? 「そりゃまったくだ」と死神は肩を竦めた。 ◇ 「おはようございます。今の起床カウントしとくね」 気持ちの良い目覚めと同時に不吉な言葉を添えられた。 「それ結局日数数えてるのと同じじゃないのか?」 「……じゃあ、今の口答えをカウントにするか」 そんなの言われたら会話もできない。 まぁ今日は友人と被ってる授業じゃないし、問題ないか。 「あー、じゃあ今の瞬きにしとくわ」 「……じゃあ瞬きもろくにできないな」 「じゃあノーカンでいいや」 いや、それで構わないけれどあえていうなら仕事しろ。 仕事しないなら帰れ。変に気疲れするし。 「学生は知らないだろうけど、上司って怒ると怖いんだからね」 死神って上下関係あるのか。 面白そうな話だし掘り下げて見たかったが、何をカウントされるかわからないのでやめよう。 「つまんないの」 と空中で大の字になるそいつを無視して、俺はケータイで今日の天気を確認しつつ何を着るか考え始めた。 ◇ そいつの上司がいるのかは分からないが仕事をしないとという義務感を少し感じたのか、少しカウントがかさみ、あと87回となった数週間後。 とうとうそいつが動いた。 「……これ、面白い?」 今まで枕元から動かなかったそいつが本棚の前にしゃがみ込んだ。 しゃがみ込んだと言っても、数センチ浮かんで入るのだけれど。 「まぁ、俺には。お前の趣味とか知らんから分からん」 「確かに。聞き方を間違えたね。じゃあ、これ読んでいい?」 「……いいけど」 そいつはいままでずっと枕元に座って口を開くことしかしなかったが、とうとう動いた。 本棚から指差していた本を手にとって、いつもの場所まで戻ってきた。そしてページをめくる。 「……」 死神が、ギャグ漫画を読んでいる。 この光景を、俺はどう処理すればいいんだ。 というか、こいつ物触れたのか。てっきり物に干渉できないからずっと浮いてるのかと。 「いや。浮けるから浮いてるだけで歩けるよ」 ぺらり、とページをめくりながら。 「やろうと思えば人間と同じことできるし、人間となんら遜色のないように装えるよ」 うん、とそいつはなぜか頷いて、顔を上げた。 「人間と大差ないよ」 なんでそんな嘘を再三言ってくるのか。 差異がないっていうならその漫画で笑ってみろ。俺は初っ端から笑わされてたっていうのに。 ◇ 「今日は厳しく行こうかな」 そんなことを目覚めと同時に言われ、全休だった俺は布団に潜り直した。 「仕方ない。じゃあ寝息でも数えるか」 そう言われたら起きるしかない。 「今の起きる動作、カウントね」 「……」 「キミ、あれだよね。反論とか反抗とかしようとしないよね」 オヤジみたく寝そべりながらそいつはどこか退屈そうにそう言った。 反論というのは、どの時点から言えば。なんで俺の元にきたんだ、とかそういうレベルからちくちく言っていいのか。 「俺にパンチは効くからね。見てわかるでしょ、肉体鍛えてるわけないじゃん」 いや。 死神は物理手段使わないだろ。鍛えたところで使わないのが目に見えてるだろうに。 「なんか、あれだよね。死に対しての危機感が薄いというか」 「そりゃ……お前死ぬよって言われて信じる人はそうそういないだろ。病気を患ってるならまた話は変わってくるだろうけど」 「ふーん……じゃあ、つまり、未だに俺のこと信じきれてないってことかぁ。まぁ、俺は信仰を集めるタイプの神じゃないからそれでもいいといえばいいんだけど」 そうだなぁ、とそいつにしては珍しくまじめに考え込む。 「どうしたら信じてもらえる? 俺的には曲がりなりにも『神』っていうのが壁になってるのかなって思って人間に近いですよアピールしてみたんだけど」 あの読書にはそういう意味があったのか。なかなか回りくどいことをする。 「それに俺は大分新人だからさ。いつカウントされるか分からないぞっていうのを匂わせて、日常に危機感をもたらしてみたんだけど失敗の色が濃厚だし」 いやぁ参った参った、とそいつは首を回す。 その落ち着きっぷりが妙に貫禄がを漂わせていたんだが、素人死神だったのか。 そいつが妙に真面目な顔つきをするものだから、俺はつい一緒になって考え込んでしまった。 死神とはいっても、こいつが手を下しそうではないし。ならば、俺を殺したくて仕方がないというわけでもない。急に家に現れたこいつのどこを信じられるのかというと難しい話だが、それと同じぐらいどこを疑えばいいのか分からない。疑念と胡散臭さはまた話が別だ。 曲がりなりにも『神』であるらしいこいつが俺に嘘をついてまで得をすることはないだろうし、一応『神』であるらしいこいつが俺を騙してまで何か害を成したいと考える理由がないというのもある。 こいつを信じてはならないと律してる理由はただ一つ。信じたら俺は自分の迫り来る死期を受け入れることになるのだ。 「……なんか、予知的なの出来ないのか?」 「予知ねぇ。じゃあ、今日の夕方あたり近くでボヤ騒ぎがおきるよって言っとく」 なんて言われたものだから、サイレンが聞こえ始めた時間は詳細に覚えている。 19時20分頃だった。 ◇ それからしばらく、そいつはカウントについて何も言わなくなった。 最後に聞いた数字は、確か78だった気がする。 世間話の相手になっていたそいつは、久しぶりに宣告してきた。 目覚ましが鳴って目を覚ますと、窓の外を始めてみる真剣な顔をしたそいつを見つけた。 どうかしたのか? と声をかけると、少し間を空けてから俺に向き直った。 「真面目な話だ。改めまして、キミはある行動を100回したら死ぬ。今回はもうノーカンはなしだ。それに、カウントする行動が何かはあえて言わない。これで、少しは『死』の圧迫感を感じるかい?」 「……」 こちらを差すその指が、刃物に見えるぐらいには。 そいつのその言葉に押されたのではなく、その表情に頷かざるを得なかった。 真に迫っていた。 真もなにも、俺はそいつ以外の死の使者を知らないが。 「カウントされたら、それは教えてくれるのか?」 「いや。言わない。でもある程度のところで報告はするよ。例えば、50切ったとか」 「……分かった」 「今の俺から言えることは短くはなくても長くもないってことだね。後悔しない人生を選んでくれよ」 「………」 どれくらいなんだろう。 今度こそ、100日なんだろうか。 勝手にそんな予想を立てて、100日後がいつなのかカレンダーと相談してみた。 なんの日でもない、ただの平日だった。 その日に死ぬらしい。 あの剣幕を見ても、やっぱりどこか信じきれない。 ただ、テストが100日以内あることがわかったぐらいだ。 どうやら勉強はさぼっちゃいけないらしい。でもその単位がもらえても、あいつの言う通りなら卒業式に俺はいないらしいけど。 微妙な日数だ。 悲観して投げやりになるには長すぎるし、何かを成すには短すぎる。 なあなあに過ごすのもなしではないかと思考放棄したいところもあるが、宣言後1日目、おはようの言葉に添えて「後悔しないように」とまた言われた。 そんな日が続けば、変に意識してしまう。 後悔。後悔。 しないようにといわれても、将来の夢とやらと向き合う時間はない。 俺は何がしたいのか。それを見つける100日でいいかなぁなんて重いながら過ごしていたら、まだ50日も経っていないのにそいつが「残り50だよ」と言い出した。 俺は絶句した。 二回以上そいつに聞き返した。 もう50か。本当に50か。 そいつはゆったり「そうだよ」と答えるばっかりだった。 信じ切っていないと思っていたはずなのに、その瞬間ばっかりは何もする気が起きなかった。ベッドに座り込んでどれくらいかは分からないが呆然としていた。 そいつはしつこいほどに「後悔」の言葉を繰り返した。 しないようにね。しないでね。 執拗すぎて、俺は少しキレ気味にうるさいと返した。 人間に近いとはこいつが言っていたが、それでもきっと寿命はない。 この言いようのない焦りをこいつは知らないのだ。それならきっと後悔も知らない。 その響きの悪い言葉を何度も言うな。 何も見つけられてないのに、そんな言葉で攻め立ててくれるな。 後悔しないようにと急かされるほど、何も見つからないような気がする。物足りないのではないのか。何事にもそんな気がして、1日を棒にふる。 でもまだある。まだ日数はある。 そう思っていたのに、改まった宣言後、3週間もしないでその宣告。 きっと1日1回の換算ではない。 複数だ。 複数あることといえば、飯の回数か、授業の回数か。 まるで見当がつかない。 「まぁ、許してくれよ。新人だからどうアドバイスしていいのか分からないんだよ。ただ、本当に心から後悔しない余生を過ごしてほしいと思ってるんだよ」 「……」 でも、なんでそんな急に口うるさくなったのか。 初っ端のときはだらけきってたじゃないか。 「うん。どうも都合が変わってね。死気が早まったんだよ」 と、窓の外を見つめながら。 どっちにしろ、俺は何が後悔かも分からないままタイムリミットを迎えることだろう。 「じゃあ……」 そいつは室内を見渡した。 そして隅っこに置かれていた据え置きのゲーム機を指差す。 「対戦ゲームとか、するかい? 俺と」 なんでそんな話を急に出してきたのか、訳がわからない。 「これがあるってことはゲームが好きなんだろう? 色んなソシャゲしてるしね。好きなゲームやり倒そうぜ。協力プレイとかしたことないだろう?」 それは大きなお世話だ。 でも、そうだな。 共通の趣味を持つ奴はいるが、そいつと馬鹿みたいにずっとゲームはしてられない。結局いつも口約束だけ。 案外そんな小さいことでいいのかもな。 「お前、家から出れないんだっけ?」 「出れるよ。吸血鬼じゃないから太陽も怖くないし」 「じゃ、ついてこいよ」 すくっとそいつは立ち上がる。 「いいけど、でも俺ゲームの経験ないからどれがいいとかどれが嫌とかないよ?」 「それでもフィーリングってのはあるだろ」 「うーん、どうだろう」 「人間に寄せられるんだろ? じゃあ、あるよ」 「そういうもんかねぇ」 「あ、お前、俺以外に見えるとか、そういうクチ?」 「いやいやまさか。取り憑いた人間以外にも見えてたら、今ここら一帯はとんでも現象ってことで通報されてるよ」 「……? まぁ、何言ってるか分かんねぇけどさっさと行こうぜ」 俺は手を招いて玄関を開けた。 こいつによるともう金を貯める必要もなさということなのだろう。 そうかそうか。 それはそれで悩みが増えるというものだ。 ◇ そいつはセンスがあったのか、素人にしては上手かった。 でも超絶うますぎるということもない。ほどほどな腕前なのが丁度良かった。 少し教えることもあるし、むしろそいつが掴んだコツを教えられたこともあるし、2人でゲームオーバーになってむずいむずいと一緒になって難癖つけたり。 こいつに俺は寿命を握られているはずなのに、なかなか奇怪な光景だ。いや、それはこいつが現れたときからずっとそうか。 コントローラーをポチポチ動かしていると、そいつが急に言い出した。 「俺ね、というか俺らってね、あんまり嘘つかないんだよ」 「そうなのか?」 「そうでしょ。だって冗談で『キミ、もうちょっとで死にまーす』とかそっちも言われたくないでしょ? 俺らは俺らがやってることが人間にとってジョークにならないことをちゃんと知ってるんだよ」 「へぇ」 「死に近いからって、死が大好きってこともないしね。深く思うこともないけど、見れてラッキーって思うことは全くないよ」 「ふーん」 「でもその点は、多分人間以上に感情豊かだろうね。人は死に際なんて何回も見るものじゃないでしょ」 「まぁ、そうだな」 「でもねぇ、不思議なことに、数回目の当たりにしても今際の際に何を言ってやるべきかっていうのは悩むんだよ」 「……」 「だからとりあえず、弁明させてね。俺らは人間個人にこうやって干渉することはあるけど、人類そのものには干渉しないようにしてるんだよ。人間ってのは、良くも悪くも、この大地と一緒に豊かになって廃れるものだからね。君たちが言うところの歴史に俺らが口を挟んじゃいけないんだよ。それはどうか理解してほしい」 こいつにしては饒舌だった。 なんで急にそんなことを言い出したのかは知らないが、妙な逆恨みをこいつに向ける気は俺にはない。 干渉だのなんだのとさっきから言ってるが、こいつ曰く人間と変わらないのだったら世界そのものをどうこうできたりはしないだろう。別に、そこに変な期待はしていない。 「そうそう。俺たちが力持ちすぎると、生命が滅びかねないからね。俺たちができるのは『キミ、あとちょっとで死ぬよ』ってことを教えるだけ。もちろん、殺したり死なせたりというのはできない」 でも実は逆はできるんだよ? と、急に恐ろしいことをいいだした。 ナイフでこいつを刺したところで、運命って奴は変わらないだろう。最後の最後でナイフで刺す感覚なんて覚えたらそれこそ後悔だ。何を言いだすんだこいつは。 「うんうん。そう思ってくれて何よりだよ。俺も憑いたからにはその人を看取ってあげたいとは思ってるからね」 ……そうか。そういえばそうか。 俺はこいつに看取られるのか。 同じ部屋で過ごして同じ話をして、同じゲームをしてるこいつに。 友人となんら差し支えのないこいつに看取られるのか。 「嫌なもん見せて悪いな」 俺は友人の死ぬ瞬間なんて見たくない。 そいつは窓の外を見上げて、にこりと優しく笑った。 「お安い御用だよ。だからどうか、安らかにね」 テレレレーとクリアを知らせる電子音。 直後、下から思い切り突き上げるような巨大な衝撃。 俺個人になんてみみっちいこと言わずに、世界が揺れた。 とうとう100の猶予が尽きたのか。 外を見ると付近の家が倒壊していた。 そして——。 こんなのまるで神の所業だ。 ひどいことをする神がいるものだ。 でも不思議とその神を恨んでやろうとは思わなかった。
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