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私は古く埃を被った、分厚い本を読んでいた。
過去の地上の様子をただただ切々と書き連ねたそれは、退屈を固めたような一冊だが、太陽を見たことの無い私にとっては、とても貴重な一文一文。
例えばこの一文。
ファンメール大国のすぐ近く、人々が集まり、憩う湖は、煌めく太陽を燦々と写して、それ以上に輝く薄水色に透き通る様は、天国に近しいとも言われる程であった。
何処かから奏でられる小鳥の調べが太陽の暑さを忘れさせて、心を洗い流す静流のようだ。
なんとも詩的で、美しい景色が目の前に浮かぶような一文。
こんな一文一文に心を踊らせている私は、いつもこの図書館で、時間を忘れてしまう。
「ちょっとティアラ! いつもうちが呼びにこな、遅刻する癖、治してくれんと!」
怒声ともとれる金切り声に、私は現実に引き戻されて、いつもの様に時計に視線を送る。
「あーーーーっ!」
学校が始まる時間はとうに過ぎており、授業の合間に抜け出して、私を呼びに来たのだ。
「ごごごめん。つい」
「ついじゃないでしょうに。ほら、さっさと行くよ」
呆れたと言わん程に頭を押さえて、すぐさま背中を見せる。
この子は私の幼馴染。
名をF・リアーナ。
リアと呼んでいる同い歳、16歳の少女だ。
当然、私も16歳の麗しい少女のはずなのだけれど、どうにもそういう事に疎いもので、魔法のことと、昔の資料を漁ること以外に興味が無い。
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