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プロローグ
「むかしむかしあるところにピーターとメアリーという兄妹がおりました…」
ふさが子供部屋を開けると、幼い子供達は二人してこたつに入って絵本を読んでいた。男の子は声を出して、隣りの女の子に絵本を読み聞かせる。
「ピーターはむらびとからみちをおしえてもらいました。そしてまたたびをつづけました」
ふさは食事に二人を呼びにきたのだが、その二人の光景のあまりのいじらしさにしばらく見とれてしまった。
「いいかい、それから二人は村も、国も旅行して、それからとうとう世界中を旅行するんだよ」女の子はもうお話の世界に夢中だった。二重の玉のような目を潤ませてお話の続きをせがんでいた。
「お兄ちゃん、早く読んで!」
男の子は読むのを止めて、悪戯っ子のような笑みを浮かべて女の子を覗いた。 女の子はもう待ち切れない。男の子が焦らすのでもう泣きそうだ。
「ずるい!」と言って顔をクシャクシャにさせるので、男の子は慌てて話の続きを読んだ。
そして女の子はすっかりピーターとメアリーの冒険の世界に入り込んでしまった。エジプトのピラミッドやアラブの宮殿、そしてサバンナの毛だらけで全身真っ黒な生き物やライオン、さらにピーターとメアリーは日本にまで辿り着き、サムライやゲイシャに歓迎された。女の子はそれらの絵に夢中になり、そして目をつぶってお話の世界を想像するのだった。
しかしピーターとメアリーが村に帰ってきて、両親が二人に別れろと言った所までお話がすすむと、女の子は急に目に涙をため「それからどうなるの!それからどうなるの!」とお兄ちゃんに尋ねるのだった。「慌てるなよ!」と男の子は妹をなだめるとまたお話の続きを読んだ。
「ふたりはそれからひとばんじゅうかんがえました。そしてまたたびをすることにしました。まだいっていないところがあったのです。ふたりはよる、ゆきのふるなかをたびにでかけていきました」
「それからどうなるの? ピーターとメアリーはどこへいったの?」
しかしこれで絵本の話は終わっている。だから男の子は何も答えることが出来ない。でも女の子は話の続きを教えてくれと言って聞かない。とうとううんざりして、「あの世に行ったのさ!」と言ってしまった。
すると女の子は堪え切れなくなって、とうとう大声をあげて泣き出してしまった。「まあどうしたの。明夫ちゃんも美香ちゃんも」
ふさは慌てて美香をあやした。
「大丈夫よ。いい子いい子!さぁ二人ともうご飯の時間ですよ」
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