大学入学

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「たいちゃん、何で?」 片手で太陽の腕を持ち、片手に杖。 荷物は全て太陽が持ってくれた。 太陽は月子に併せてゆっくりと歩く。 「最近、物騒だし、遅いと危ないかなと思って。早く終わったしな?ごめんな?車で来れば良かった。」 「いいよ…。」 この駅は乗り換えの駅とは違う。 小さい駅の方に入る。 駅前はまだ大きなロータリーもない。 そのくせ車の交通量は多くて、止まるのは大変だ。 朝などは送ってもらっても停止が困難、それは知っているから太陽が謝る事はないと、月子は思っていた。 「自転車の方がいいかな?自転車載せられる大きい車買うよ。いや、この駅に置いておいて、こういう時は自転車で帰れるように……。」 太陽の言葉を月子は止める。 「たいちゃん!どのみち、今のこの足で自転車無理だから。きっと今、たいちゃんの頭の中、自分を責めてると思うけど…。」 「責めてないよ?」 「嘘! 朝、送って行ったから自転車がないとか、自転車で来てやれば良かったとか…すごーく考えてるでしょ? そういうのは全部要らないから! ここに来てくれた……それが月子の全部で今の事実。 たいちゃん、お迎え、来てくれてありがとう。」 コツンと頭を肩に寄せた。 「どぉいたしまして……。」 照れ隠しの太陽の言い方。 昔からそう…、月子はくすりと笑う。 人が少ないところまで来ると、太陽は背中を向けて座る。 「え?いい!絶対、いい!」 全力で遠慮する。 「もう暗いし誰も見てない。結構、きつそうだ。ほら!」 「こ、子供じゃないんだし、十八だよ?大人だよ?恥ずかしいよ。」 「こういうのに、子供とか大人とか関係ないの!さっさとする。 腕組んで歩いてる方が心臓に悪いわ…。」 最後は前を向き、小さな声で太陽は呟いた。 それが聴こえてしまった月子は顔を赤くしながら、黙って太陽の背に乗った。 (ああ〜〜……。そうだ。腕組んで、その上肩に頭をぉぉ〜〜〜。 誰かが見たらカップルみたいじゃないかぁ……。 うわぁ……。足が痛くて考えてなかったけど、なんて事を……。) 「………恥ずかしくて死ねる。」 思わず声に出る。 「ん?誰も見てないって。」 太陽が勘違いして笑いながら言う。 「重くない?」 耳元で小さな声で囁いた。 「ああ…。重くないよ……。」 答えた太陽の耳が……真っ赤だったので、月子も顔を赤くした。 頬をあからめて、小さく笑った。 「何、笑ってる?」 「何でもない。たいちゃんは変わらないね?昔から優しい。」 「そう変わるか?優しいのは誰にでもって訳じゃない…月子…。」 と、言いかけて太陽はやめた。 その先を月子も聞かなかった。 家まで黙って歩いていた。 月子にだから、優しいんだよ……。 二人はその言葉をお互いに飲み込んだ。
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