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オレが高校生になって一ヶ月が過ぎた五月の半ば。
その日は横殴りの雨が傘をさしていても無意味なほど身体に吹きつけて、まだ新しい制服が容赦なく濡れていった。
高校の昇降口に着いて濡れた傘をたたんでいたとき、下を向いていたオレの視界に誰かの脚が。
オレひとりがいるだけで到底邪魔になるはずがないその場所で、なぜかオレの目の前に立っている。
同じローファーに同じ制服のズボン。濡れたからかグレーのズボンは色が濃くなっていた。
傘を丸め終わっても一向に動こうとしないその人は誰なのだろうと顔を上げたとき、思いもよらない人だったことに肩が跳ねる。
「おはよう」
爽やかな低音。深みがあってどこまでも通りそうな声音。
えっ? なんでこの人が?
そう一瞬混乱したけれど、咄嗟に挨拶を返した。
「あ、お、おはようございます」
「驚きすぎ。ま、可愛いから別にいいけど」
そう言って微笑んだあなたの顔は昔を思い出させて、けれど高校生の今確実に大人になっていた。
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