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直人は「はいはい」と両手をあげる。白いシャツにデニムのパンタロン(ベルボトム)と、いかにもラフな格好に気楽なものだとマリは思う。
自称イラストレーターの直人が普段なにをしているのか未だに謎だ。
「……猫を、探しているんだよ」
「えっ?」
「俺が昼間になにしてるのか知りたいって顔してたから」
直人がぶっきらぼうに言った。
「……嘘だわ」
マリは不貞腐れる。直人はいい加減なことを言っていつもマリを困惑させるのだ。
「元気出しな。きっと見つける。俺は君みたいな働き者の嫁さんをもらって家でゴロゴロしたいんでね」
「はぁっ?」
マリと直人はゲームをしている。直人が朔を見つけたら「結婚を前提とした男女交際」をすることになっていた。
「黒猫を見つけるから、ヒモにしてくれって言ってるんだ」
「…………」
呆れて言葉もなかった。しかしマリは「直人さんたら……」、とうとう笑ってしまう。からかうようなことを言うのは、直人なりの励ましだと分かっていたからだ。
直人と一緒に洋館へ戻るとピアノの音が聴こえてきた。
「藍子さんが来てますね」
マリが音楽に耳を傾けていると。
「俺は用事を思い出したから戻る。じゃあ、ここで」
「ええっ?」
鉄の門扉を開ける間もなく、直人は暗闇の中に消えてしまった。
「直人さん、どうしたんだろう」
いつも藍子にべったりな直人の様子がおかしいと気にかかるものの。
「直人さんはいつもおかしいものね」
マリは藍子の邪魔にならないよう、できるだけ静かに洋館の中に入った。
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