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「よぉ、篠田。今帰り?」
唐突に後ろから名前を呼ばれて、私は大袈裟なほどに身体を震わせた。
「……っ、槙」
槙丈也。
彼も中学からの友達の一人。野球部のキャッチャーをしているから、とにかくガタイがいい。
恒祐とは親友ってほど仲が良く、恒祐は何彼につけて槙に絡みに行っている。
賑やかでムードメーカーな恒祐とは対照的に、
槙は、仲間内で騒いでいてもどこか俯瞰してるというか、一歩退いて穏やかに見守ってる感じ。
必要以上に踏み込まないところは嫌いじゃないけど、無駄に大人びていて、イマイチ掴めないヤツなのだ。
「部活は?」
「この雨でグラウンド使えねーし、監督が腰痛で病院行くっていうから今日は無し」
「……そ」
槙は、大きな身体を折り曲げて外を覗くと、
伸びかけの坊主頭をがしがしと掻いてため息を溢した。
「げー、結構降ってんな、俺傘ねーのに。
つーかお前、なんでこんなとこで突っ立って……」
そこまで言いかけて、槙はチラリと校門の方に視線を移すと、
「あー……なるほど」
小さく呟いて、私をじっと見下ろした。
……なるほどって、何よ。
きっと、視線の先にはあの二人が居たに違いない。
槙の見透かしたような視線に、私は無性に腹が立った。
「傘。無いなら、使えば?」
私は、左手に握っていた折り畳み傘をズイッと槙のお腹に押し付けた。
こんなの八つ当たりだってわかってるけど、ついついキツイ言い方になってしまう。
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