Resurreccion

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Resurreccion

muerte tierra. 蘇生の呪文。 その呪文はいかなる死をも遠ざける。 muerte tierra. それは死に窮する冒険者達を救う、慈愛の祝詞。 この声聞こえるところ、死の帳(とばり)は下ろされぬ。 muerte tierra. しかしその生い立ちを知る者は少ない。 それは、悲しい物語。 遥か昔、とある街に徳深き偉大な魔法使いがいた。 白き衣を纏いし姿は慈愛に溢れ、人々に敬意をもって接された。 しかし彼はずっと迷っていた。 当時は、聖なる勇者のみ永遠の命を保障された世界だった。 そんな世界でいいのか? それは徳の道に沿っているのか? 慈愛の心より生まれし迷い。 そしてその慈愛が、徳を裏切らせた。 日々繰り返される人体実験。 生ある者も、生なき者も、等しく実験に供された。 「偉大なる発明は、尊い犠牲なくして為しえないのだ。」 魔法使いは歯を食いしばり、良心の呵責に耐えた。 来る日も来る日も繰り返される実験。 いつしか、誇り高き白き衣は赤く染め上げられていた。 しばらくして、人々はかの魔法使いを邪悪な存在とみなすようになった。 曰く、世の理(ことわり)を乱す者。 曰く、徳の治世に唾を吐きかけるもの。 曰く、無辜(むこ)の命を弄ぶもの。 そんな嘲りを受けても、信念を曲げなかった。 「偉大なる発明は、尊い犠牲なくして為しえないのだ。」 それが正しいのか、間違いなのか。 それは後世に委ねるしかなかった。 そして呪文は完成した。 おびただしい犠牲のもとに。 その中には、かの魔法使いの家族も含まれていたという。 そして、魔法使い本人も。 それでも、呪文は完成したのだ。 そして今。 犠牲者は安らかに眠っているのか? 眠ってなんかいない。 今も墓場で蠢(うごめ)いている。 死した体と死ねぬ魂を無理やり繋ぎとめられたまま。 今も墓場で蠢いている。 muerte tierra. 今日もどこかで詠唱される。 muerte tierra. この呪文は生まれるべきだったのか。 それとも生まれるべきでなかったのか。 かの魔法使いが纏いし赤き衣は、何も語らない。 muerte tierra. muerte tierra...
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