エピローグ

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「道路から事故を完全に撲滅する為の取組も進めています。来週からレベル四の自動運転システム『パイロットセンスⅣ』搭載車の実証実験を開始します。全ての道路で自動運転が可能で、運転手が居眠りしても事故も起こさず、目的地まで走行出来る車です。これを実現する為、百万のシーンの通常(ノーマル)緊急動作(エマージェンシー)冗長性(リダンダンシー)の動作を三重系で評価しております。そして常時ドライブレコーダーのデーターをクラウドサーバーへアップロードし、プログラムの脆弱性を監視し問題があればリアルタイムでプログラムのOTA(オーバーザエアアップグレード)を行います。これにより『パイロットセンスⅣ』搭載車の事故発生率を現状の一万分の一に出来る見込みです」 「実はこの会場でその実証実験車の披露をさせて頂きたいと思います。これが豊国自動車の『セイフティ』です!」  雄二が振り返り手を差し出すと、壇上の後方から卵型の小型自動車が低速で走って来た。その車の運転席には誰も座っていない。 「この『セイフティ』は市場走行での自動運転の実証実験を主目的に開発されましたが、もう一つ特別なオプションを装着可能です。そのオプションはスマホで呼び出します」  雄二がそう言いながらスマホを操作して空を見上げている。少しすると複数のモーターが唸る音が聴こえて来た。観客が雄二の見上げている方向を見ると四つの垂直プロペラを持った大型のドローン様な機体が図書館上空に現れて緩やかに壇上の『セイフティ』に向けて高度を落としている。そして滑らかに『セイフティ』の屋根上にドッキングした。ロック機構が働き『セイフティ』と大形ドローンが固定される。  会場から(どよ)めきが起きた。 「これが『セイフティ』のもう一つの機能、空飛ぶ車オプションです。実証実験をするのは二次元の自動運転走行だけでなく、三次元の自動操縦飛行を含みます。既に国土交通省の審査を終え実験機としての認可を頂きました。これからの移動は人と車を三次元に分離し更に車による交通事故を撲滅させたいと思っています。空を飛べば歩行者を跳ねることはありませんから……。勿論、飛行の安全性の担保は前提条件となりますので、その確認も今回の実証実験の目的となります」  そう言うと、雄二は『セイフティ』の助手席のドアを開け、理紗に乗り込む様に促した。理紗が助手席に座るとドアを閉めて、自分は反対側に廻り運転席のドアを開けた。 「それでは、私のスピーチはこれで終わります。皆さん、是非『下妻市立技術図書館』を楽しんで下さい。ありがとうございました」  雄二は会場の観客に頭を下げるとマイクを司会の女性に渡して『セイフティ』に乗り込んだ。
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