闇夜の死闘

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溶岩の壁に塞がれた施術部屋のドア枠。その内側の室内廊下で空間に歪みが発生し、アレックスが姿を現す。 ラヴァフードはすでに荒れた部屋を奥へと進み、リビングにまで到達していた。 「……クソッ!」 アレックスの位置からは膜状の溶岩に覆われた背中が見えるが、寝室への攻撃を始めずに立ち尽くしているようだ。 「ん……?」 紅蓮の刀身を両手に握ったまま、慌てるように廊下を走り出そうとするアレックス。しかしラヴァフードの様子に違和感を覚え、自らの速度を緩めていく。 「やれやれね……」 膜状の溶岩を揺らし、両手を腰に当ててため息をつくラヴァフード。 その理由は、 「……まんまと時間切れというわけかね」 鎖の防護壁に包まれた寝室の入口。その手前側に一人の男が立っていたからである。 「ゴーストの話では、施術に数日を要すると聞いていたのだがね」 ラヴァフードが語りかける相手は、後方の廊下に現れたアレックスではない。 「情報が間違っていたというわけかね?」 「……私一人に集中すれば、一日程度で施術は完了する。病み医者からの提案を受け入れたまでだ」 ラヴァフードに言葉を返すのは、寝室で施術を受けているはずのルーベン・ヘッドエール。 彼の言う通り、施術には三日を要するという話であったが、それは三人が同時に完全な回復を遂げる為の時間だった。 Drパラノイアはルーベンの回復だけに集中して施術を行い、復活までの時間を大幅に短縮。 敵の襲撃があっても中断しなかったことで、ルーベンは完全な回復を遂げることができた。 山脈の戦いや暗黒街に入ってからの戦闘で負った身体中の傷は無く、さらに心身共に疲労さえも消え去った。 “超人の長”の完全復活。山脈の戦いが始まった時ですら、彼は元老院からの洗脳に加えて連戦に次ぐ連戦に身を投じていた為、ルーベンが万全な状態で敵地に居るのは、実はテース事件以来である。 「ルーベン……? 施術が終わったのか?」 廊下からリビングに足を踏み入れたアレックスも、ルーベンを見て驚きの表情を浮かべている。 「なるほど……味方にさえ秘密だったというわけね」 アレックスの反応を見たラヴァフードは、苦笑しつつ納得したようなつぶやきをあげた。 倉庫番衆が“超人”の居場所を常に把握していたのは、エボニーナイトが彼に刻印を与えていた影響だ。 男性のルーベンに刻印は効力を発揮しないが、エボニーナイトは刻印を与えた相手の居場所を感知することができる。 さらに施術等の情報を持っていたのは、スタントマンとヒートスキンの部屋にゴーストが潜伏していた為である。 彼女は鏡の世界に身を潜め、数日に渡って様々な情報を仕入れていた。それをウロボロスを始めとした倉庫番衆に伝え、今宵の襲撃が決行されたのだ。 「世話をかけたな」 アレックスにそう言い、ゆっくりと両手の拳を握って身構えるルーベン。 「嘘のように身体が軽い。どうやら今までは本当に死にかけていたかのようだ」 薄く笑みを浮かべ、リビングに侵入しているラヴァフードへ歩み寄っていく。 「面倒だが仕方ないね。残る二人の施術は中止にしてもらおうかね」 言い放つラヴァフードは、目の前のルーベンに両手をかざし、ボコボコと溶岩を膨らませていく。 例えルーベンが復活しても、状況としては先程と大差無い。 室内でラヴァフードが暴れれば、寝室にも甚大な被害が及ぶだろう。 が、 「一つ言っておこう」 ルーベンは素早く左の拳を突き出し、瞬く間に引く。 それによって発生した拳圧が、ラヴァフードを覆う膜状の溶岩を散開させ、彼の姿を露にする。 「え……?」 そして次の瞬間、 「ごぉ……ッ……ッ……ッ……!!?」 ラヴァフードの顔面に、ルーベンの右拳が炸裂。 頬を打ち抜いた際、鈍い音が鳴り響くと共に凄まじい衝撃がラヴァフードを襲い、鼻と口から鮮血を垂らしながら、彼の巨体を後方にふき飛ばす。 「うぉ……ッ!?」 アレックスは身をかわし、前方から迫るラヴァフードを避ける。 「ガッ……ハッ……ッ……!?」 宙を舞う巨体はそのまま、ドア枠を塞ぐ溶岩の壁に頭から激突。それすらも突き破り、大穴の下へと姿を消していった。 「私が万全となった以上、倉庫番衆(お前達)は終わりだ」 右拳を振り抜いた体勢で言い放つルーベン。 “超人の長”の復活は、暗黒街に巣食う者達に多大な被害をもたらすだろう。 当初の目的は“倉庫”の情報。しかし暗黒街の実情に触れたルーベンは、すでに倉庫番衆そのものを標的とするつもりだ。 「施術は成功のようだな。どうだった?」 「テロリストに借りを作るのは癪だが、そうも言ってられない。今の敵の数は?」 発言を投げたアレックスに、体勢を整えたルーベンが尋ねる。 「何人かはわからないが、“切り裂き紳士”がいる。俺が見たのは今の溶岩男と、同じフロアに砂男と他人に化ける男だ」 「私が片付けよう。他の皆は休んでてくれ」 そう言って、部屋の出口に向かうルーベン。 「そうはいかないだろう。まだ油断は禁物だ」 アレックスもそれに続き、二人は荒れた施術部屋から外の廊下に踏み出していく。
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