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「逆に傘倉さんには将来の夢とかってあるの?」
「あるよ」
ノータイムでの返答。まるでそれを聞かれるのを分かっていたかのようだ。
「何?」
「好きな人と結婚して幸せに暮らすこと」
いいと思う。いいと思うけど僕の目を見て真顔で言うのだけはやめてほしい。
僕みたいな地味系の男子は女子との接触が少ない分、余計に勘違いしやすいんだから。
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ようやく話しかけたまでは良かったんだけど、特に進展もないまま1ヶ月が過ぎた。
どうしよう、このままじゃ何も成果を得られないまま梅雨が終わっちゃう。
せっかく相合傘っていう一緒に帰る大義名分を手に入れたっていうのに。
「逆に傘倉さんには将来の夢とかってあるの?」
そう聞かれて仕掛けるならここだと思った。
「好きな人と結婚して幸せに暮らすこと」
結婚とかは・・・まだ早いけど私の好きな人。それは君だよ。
目でそう訴えかけたつもりだったのだけど、帰ってきたのは。
「へぇ〜。凄く良いと思うよ」
たったそれだけ。つれないなぁ〜。つれないけどそういう所も好きだったりする。
彼の好きなところ。数え上げたらキリがない。
整った顔立ち、セットしてないのにセットした風に見えるくせっ毛、低くて聴き心地の良い声、低くも高くもなく程よい身長、あと会話が面白いところとか、その濡れた左肩とか。
とにかく彼は自分のことを地味だとか面白くないとか否定ばっかりしてるけど、実際は全然そんな事はないんだって私は主張したい。
知ってる?影山くん、中学生の頃からクラスの女子に大人気なんだよ?髪を染めてやんちゃアピールしてるサッカー部の男子なんかよりもずっとカッコイイって。
「で?影山くんの夢は?私にだけ言わせておいて自分は言わないってのは無いよね?」
「あぁ、そうだったね」
ふむ、と顎に左手の親指と人差し指を当てて考える影山くん。その姿も様になっててカッコイイ。
「僕の夢は、つまらなくて申し訳ないけど平穏無事に一生を終えることかな」
「じゃあ私と一緒だね!」
「それは色々と違う気がするけど・・・」
そうやって話してる間に田んぼ道を抜け、自分達の家がある住宅街のすぐ近くまで帰ってきていた。
100メートル先の角を左に曲がれば私の家のすぐ近くだ。さらに100メートル先が彼の家。
いつもの事ながら時が経つのは早い。
「そういえばさ〜。昔ここで誘拐未遂事件があったの覚えてる?」
もう時間がないから、少し無理矢理だけど話題を切り替えた。
「よく覚えてるね。関係者の僕ですら忘れかけてたのに」
そう、彼はその事件の関係者。そして私も。
「覚えてるも何も。その時、連れ去られかけてたのは私だから」
「えっ!?」
切れ長の目が大きく見開かれた。この様子だと気づいてなかったんだろうな。
5年ほど前、私は知らない男の人に捕まって車に乗せられそうになった事がある。そんな時に助けてくれたのが同じく小学生だった影山くん。
彼は勇敢にも防犯ブザーを鳴らしながら犯人に立ち向かって結果、私を救い出してくれたのだ。
だから私にとって彼はヒーロー、なんだけど。
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