第一章 大いなる罪

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 第一章 大いなる罪

 複製された幸福            薑承 伊織        この話の内容は、私達がいる次元とは別の次元のお話しである。また事実では無い。  第一章 大いなる罪  二千九十一年六月三十一日午前十一時。 一人の男が産声をあげた。その男の容姿はそう明らかに狼だった。彼の産毛は狼のものに近かったが頭皮の毛だけは人にも近かった。この男の遺伝子はこの世に他にも存在している。  二千九十年一月一日午前零時零分日本では新年を迎えているこの年にある大富豪の男はとある医者と科学者を日本の自宅に招き入れ酒とタバコを楽しんでいた。医者の名前はアンドリュー・カーンという。彼は、二千七十五年からずっとデザイナーベイビーやクローンベイビーを安全に生まれさせた若手天才産婦人科医だ。もう一人の科学者の名を、デイビット・スローンと言う。彼は、史上初デザイナーベイビーの技術を応用して新種を作った男だ。彼は、科学者達に尊敬の脚光を浴びる事も無く、悲観的な意見を浴び苦しんでいた。そんな彼だったが、日本人の男であり推定資産二兆円の大富豪である村松・勇正の計画に出会ってからは人が変わった様に研究に取り憑かれた。今日その研究についての会議が、強力な権力を持つ三人によって始められた。村松が高い酒を持ってくる間に二人は、キングサイズのベットより大きくキリンの足の様に長い木製のテーブルに研究データの用紙を綺麗に並べ情報を整理していた。するとしばらくすると村松は笑みを浮かべながら一本六十万円する日本酒を開け勿体無いが、適当に三百万円のグラスに注ぎ恰も安酒を提供するが如くアンドリューとデイビットに振る舞った。そして高級ソファーに村松は寄りかかると松村の飼い犬のウルフドックが利口に高級なカーペットに座っていた。珍しい犬に対して質問をしようとする二人を、無視して松村は話しを切り出してしまった。 「久々だな、デイブそしてアンドリュー。デイブに関しては、私が約七年間待ち望んだものがついに完成したなんてな。」デイビットは、笑みを浮かべ話しを続けた。 「ああ少し待たせすぎたと反省中だ村松。しかし大問題は資金と被験体だ。マウスと猿で実験を行なったが問題は無かった。マウスだけでも生まれた新種の被験体は百十二匹だったが、みんな無事だ。むしろ驚愕と言ってもいいだろうゲノム編集の技術は素晴らしい。特にこの猿の被験体二〇九番は、恐ろしい肉体を持っている。デザートイーグルの銃弾を 止め傷一つついていない。またこのマウスはいくら切っても脳がある限り再生した。」 村松とアンドリューそしてデイビットは無邪気に微笑んだ。 「資金については心配するな私がいくらでも出してやる。また被験体だが、私がなろう。」 アンドリューとデイビットは驚き咽せた。 「君がか。覚悟はできているのか君のクローンベイビーをヒト科の新種にするんだぞ。」これまでもの静かだったアンドリューが叫ぶ。 しかし村松の目は本気だった。」 それを見た二人は覚悟を決めた。  あれから約1ヶ月後の一月二日に村松の体質や身体の全てがアンドリューの病院にて念入りに調べられた。またデイビットは計算と実験を繰り返し村松のクローンが持つ〈能力〉についての要望をまとめていた。その中には様々な生物の良い面の遺伝子情報が入っていた。コウモリの放つ超音波とイルカのエコーそしてヤモリの吸着能力。またアホロートルの再生能力にゴリラの腕力そして松村のDNA情報。これらを上手くクローンに組み込むために松村の遺伝子情報自体の強化が必須だった。  しかし二千八十四年に土星の衛星であるエウロパにて発見された微生物の遺伝子が、他の遺伝子情報を(七種類まで取り込めるがそれ以上だと合成できずに死滅してしまう。)吸収し新たな子孫を作る事が出来ると判明していた。  この不思議な微生物をエウロパの海水から採取されたサンプルから発見したのが研究者の立永・英寿であった。彼はその微生物をvitaeStella glacies floesと名付けたまた和名ではヒョウセイマイクロブと命名された。その後、彼の名付けた名前は学会を通して広まった。しかし立永のヒョウセイマイクロブが彼の物になる事は無かった。宇宙へ行く資金や研究費を支払っていたのが、大富豪村松である。彼は自分のクローンを作る構想を抱いており進化した自分の肉体に記憶を植え付けようとしていた。その構想をヒト科進化計画である。しかし実現は社会思想に反る為中止になった。しかし密かに温めたこの計画はクローンベイビーを使うあの計画に変化する。また政治家たちを味方につける為に、当時からずっと続く紛争を止める名目で、生物兵器を作ると吹き込み世論に晒される事も無く計画が進んだ。そして二千九十年四月に遺伝子が完成。同じ年の二千九十年五月十三日受精卵が受精。翌年の二千九十一年六月三十一日午前十一時。遅めの出産だったが松村のクローンベイビーは悲劇的な残響を纏った産声を上げた。あれほど誕生を待ち望んだ松村は悲鳴をあげた。なぜなら、その姿は疑念と恐怖を抱くほどに奇妙であったからである。
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