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桃瀬さんは才原紫音と心中する覚悟がある。今抱いた覚悟ではなく、才原紫音と対峙した一月からーーいや、きっと姉を殺害された三年前から。 一度目は椎葉佳純さんが、身を挺して才原紫音を守ってしまった。だからニ度目の今は、協力者がいない今は、桃瀬さんにとっては復讐を成し遂げれる絶好の機会。 俺の拘束を外し、逃がせる時間も、精神的余裕もない。もし行えても、今度は才原紫音がその機会を逃さない。 彼女は、桃瀬さんへの復讐心に燃えている。心中ではなく、桃瀬さんの死だけを望んでる。 死ぬ覚悟がある人と、殺す覚悟がある人。俺に、救いの手はない。俺は巻き込まれて、死ぬ。 受け入れられない。だけど手足を縛られ、動きが封じられている状態では、二人の動向を見ていることしかできなかった。 桃瀬さんは才原紫音に飛びかかって、ライターの火を放てる。ーーそのはずなのに。 「あれえ?どうしたのぉ」 桃瀬さんはその場から動かなかった。チャンスを窺っている様子ではい。 挑発するように語尾を伸ばされても、悔しげに歯を噛み締めただけだった。才原紫音の顔に、勝ち誇った笑みが浮かぶ。 「頭では分かっているのに、彼を見捨てるつもりでいるのに、どうしても実行には移せない。そんな雰囲気がヒシヒシト伝わってくるわよ」 「……っ!」 「それはあれかな。ムラサキ殺人鬼の協力者に過ぎなかった佳純を殺してしまった罪悪感のせいかな。あなたの復讐の対象は、姉を殺害した実行犯だけ。それは私?ーーって言うのは、一月の時に言ったね」 昔を懐かしむように、才原紫音はふふっと笑みをこぼした。 「あの時、霞をムラサキ殺人鬼だと思って向かい合ってるあなたに、背後から話しかけた時の驚きようったら、面白かったわ。飛び上がってたもんね。その後、茫然自失のあなたに代わって、佳純が家に火を放ったのよね。あれには私も驚いた」 翳りが生じた才原紫音が、俺を見て笑みに変える。
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