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「藤吉郎。雨が降ったらどうする?」
「は?」
期待と異なる信長の予想外の問いかけに、藤吉郎は小首を傾げた。
「雨が降ったらどうすると申しておる」
「雨が降ったら、軒を借りて雨宿り致しまする」
藤吉郎は、普段の自分の行いを想起してそう答えた。
「軒がなければどうする!」
何故かは分からないが、信長が殺気立って来たことに藤吉郎は気付いた。雨宿りは怠惰な印象を与えたのかも知れない。
「はっ。蓑を着け、道を急ぎまする!」
信長の顔色を見て、藤吉郎はそれが正解でないと瞬時に悟った。
「蓑ではないわっ。傘を差すのじゃ!」
堪り兼ねたように、信長は言い放った。
「傘をさす?のでござりまするか。これはまた斬新な手でござりまするな」
「……であるか」
気まずい静寂の時が過ぎる。
「もうよいっ、下がれ」
藤吉郎は、ほっとしながらも、何が信長の機嫌を損ねたのか分からぬまま、すごすごとその場を引き下がった。
「時代が俺に追いついておらぬ……」
信長は、寂しげにそう唸った。
雨の日に、自在に開閉出来る=差せる傘を当たり前に持ち歩くようになるのは、江戸時代以降のことである。
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