第5章 かけ離れた幸福 

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どこか旅行に行きたいとか。 ちょっと高い指輪をおねだりしてみようかとか。 丸々一日、主婦業休みの日にしちゃおうだとか。 (おおむ)ね、そんな回答を予想していた。 そのどれとも違うものに、全員が面食らう。 「働きにって…会社に勤めるって事?」 「フルとは言わなくても、パートとか。仕事が忙しい賢哉のフォローも今まで通りきちんと熟して、家庭と仕事を両立出来たらなって。賢哉ひとりに生活費を稼いでもらってる、ある種の後ろめたさみたいなものも多少は改善されるだろうし。家でもやもやしてるぐらいなら、気分転換も兼ねて外に出ようって」 緋音の質問に答える玲那に、美苗は不服そうな声を上げる。 「主婦だって立派な仕事ですよ。どこからもお給料もらえなくても、いないと一日だって生活は成り立たないんですから。そういう意味では一番大事な…まあ、普段さぼりまくってる私が言っても説得力に欠けますけど」 「美苗さんは、和菓子屋さんのお仕事もしてるじゃないですか。…主婦の仕事が嫌なわけじゃないですよ。奥が深くてやりがいも感じてるし。お給料は全額、毎月きちんと渡してもらってる。『誰の金で飯が食えてると思ってるんだ』なんて台詞、賢哉は口が裂けても言わない。…だからほんと、贅沢な悩みなんですけどね」 分かっていてもなお心の(もや)が晴れない自分を、玲那は笑った。
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