恋って残酷――

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恋って残酷――

「なあ、あいつのどこがいいわけ?」  食べ終わった菓子パン袋を丸めながらそう訊いた。  昼休みの屋上は今にも雨が降り出しそうだ。ただそれだけでも気が滅入るところにもってきて、隣を見やれば飯もそこそこにウワの空で、ぼうっとしている相棒の様子にも腹が立つ。コイツの視線の先に何があるのかなんてことは、聞かずとも承知だ。  そう、色白でスレンダーな肢体に似合いの亜麻色の髪を風に揺らし、大きな瞳はクリクリと表情豊かによく動く。渡り廊下を歩きながら楽しげに笑う声、コイツの目線がいつも追いかけている先には必ずヤツがいる。  幼馴染だか何だか知らないが、ガキの頃からの知り合いで、仲良く遊んで育った仲らしい。  男のくせにして愛くるしい大きな瞳で真っ直ぐに相手を捉える視線、ちょっと頼りなげな仕草、他人に警戒心の無さ過ぎる素直でやさしい性質。そんなものが危なっかしく思えるのか、常に傍にいて見守ってやりたくなるのは分からないでもない。  知らずの内に保護者的な意識が身に付いてしまったわけか、とにかくヤツに対するこいつの過保護さには、見ていて呆れるものがあった。  過保護を通り越してそれが好意であるだろうことに気付いているのかいないのか、はっきりしないコイツの態度に腹の立つ思いが過ぎるのは、かくいう俺自身がコイツに捕らわれてしまっているからだということを浮き彫りにするようで後ろめたい。  側にいる時は親友気取り、それ以上の邪な感情など微塵も見せずに清く正しい幼馴染を演じ続けているのを見ていると、こっちの方が焦らされてならない。  そんなに好きなら手っ取り早く告っちまえばいいのに――  野郎同士だからとか、そんな些細なことを気にする性質(タチ)でもねえだろうによ。  いつもただただ遠くから見つめるだけで、意思表示のひとつもしようとしない。そんなコイツに対して、時折妙に苛立ちが募るのを抑えられずにいた。 ◇    ◇    ◇
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