親衛隊

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俺がクラスメイトくんを認識したのは、クラスの子たちに着付けをしてた時です。 そういえばあの時、自分より小柄のクラスメイトに腰が引けていた気がします。 今思うと、あれは怯えていたのかもしれません。 あれ以来少しずつ話すようになって、今では俺の親衛隊隊長を務めるまでになったんですよね。 彼が楽しそうに生活できているのは、俺が思っている以上に大切なことなのかもしれません。 あ、あと気になることが。 「ところでさ」 「なに?」 「文化祭準備で初めて話しかけた時と、今と、どっちが素?」 これ、気になるんですよね。 今、無理して明るいキャラとかしてたらしんどいだろうなと思いまして。 「こっち。ああいうグイグイくるようなわがままなタイプはまだ少し怖くて」 君もわりとグイグイタイプだと思いますけどね。 でも、自分をつくってるわけではなさそうです。 「向こうも悪気はないって分かってはいるんだけど」 「ふーん」 そうなんだ。まあそうか。 そりゃトラウマにもなるよね。 「幻滅した?」 「いいや?確認しただけだし。むしろ嬉しいよ」 「え?」 「だって俺にはもうずっと素で接してくれてるってことでしょ」 って言ったら、ほんとそういうところだよね!とぷりぷり早歩きをして、俺は置いていかれました。 えー励ましたつもりなんだけど。 「あ、でもヘッドロックは自粛してほしいかな」 大きい歩幅を利用してすぐに追いつきます。 俺の言葉を聞いて少ししょぼんとするクラスメイトくん。 え、そんな落ち込む? 「...ごめん。中学の時、みんなが男同士でああいうことしているの楽しそうだなって思ってて」 ほーなるほど。 楽しそうだから自分でやってみたと。 でも、慣れてないから力の加減が分からないんですね? 「んーじゃあ、別にしてもいいよ」 「え?でも今自粛してほしいって」 「うん。でも、もう少し力を弱めてくれれば大丈夫」 実際、クラスメイトくんより怪力な人なんて俺の周りにはごろごろいますからね。 「ただし、俺以外の人にしちゃダメ」 「え?」 「分かった?」 「う、うん」 「よし」 クラスメイトくんは戸惑っているようですが、少し強引に頷いてもらいました。 ご褒美に両手でわしゃわしゃと髪をかきまわします。 「ちょっとなにすんの⁈」 手を止めて、憤慨しているクラスメイトくんの顔を覗き込むと、見事に睨まれました。 怒らせすぎちゃったかな。 謝罪の代わりにぽんぽんと頭を撫でます。 「これから先何かあったら、抱え込まないで俺に相談してね」 こんな行為にも慣れていないのか、目を見開いて固まるクラスメイトくん。 まだ動き始めないようだったので、彼をおいて歩き始めます。 「...横から見てるのと、自分がされるのとはやっぱり違うもんだね」 背後から呟きが聞こえました。 彼も歩き始めたのか、声はギリギリ聞こえるくらいです。 向こうは俺に聞こえてることに気付いていないのかもしれませんが。 「横から見てた」ってことは、こういうことにも憧れてたのかな、なんて。 俺からしたら普通の行動も、彼にとっては憧れを抱くものなのでしょうか。 「皆が君島くんに落ちるのも分かるなぁ」 うーん。落としてるつもりはないんだけどね。 そういえば、なんで園田先輩の親衛隊に入らなかったのか聞いてみました。 ああいう集団が一番怖いとのことでした。 確かに。
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