雨が降ったら会えないふたり

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雨が降ったら会えないふたり

『だから仙台みたいに月遅れでやればいいのに』  と、毎年この時期、会社の日報の雑記欄に書いている気がするなと思いつつキーボードを叩く。  七夕という星空ありきのお祭りを何ゆえ梅雨の真っ只中にするのか。旧暦ならば梅雨も完全に明けている時期なのに、新暦でやろうとするから雨や曇天に見舞われてしまうことになるんでしょうよ。 『星空の見えない七夕には牽牛と織女は会えない』  というルールがオフィシャルなのかは知らないけれど、幼い頃より私は誰からか、どこからか、そう教わった。なので晴れていない七夕は、なんだか悲しい気分になるし、短冊に書いた願い事も叶わないんだろうかとがっかりする。 「今年も会えないのねえ~」 と、どんよりした空を見上げながら母と会話した記憶があるので、母から教わったのかもしれない。  引き離された男女が、天の川という宇宙的スケールの隔たりを越えて年に一度だけ会えるという過酷な遠距離恋愛… ここ数年、私は彼女達にシンパシーを感じずにはいられないでいる。  大阪で働く私と、東京で働く彼、二人の間には天の川は無いけれど、淀川やら木曽川やら天竜川やら、たくさんの河川で隔たれている。一年に一度とは言わないけれど、三か月に一度会えるかといった状態。  5年前から付き合って、3年前にこの状態になった。つまりこの状態の方が長くなってしまった。付き合っている期間は長いけれど、その内容は薄い。  今回に至っては、実に半年ぶりの再会。今日、彼が大阪に来て、明後日の七夕の夜、最終ののぞみで帰る予定。  終業のチャイムが鳴る。  同時に日報をアップし、課長が何やら私に話しかけてきそうな気配に気付かないフリをして会社を出る。  オフィス街には今朝からの雨が降り続いてた。
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