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俺
「はぁ…またか…」
会社の傘立てを見て、消え入るような声を出した。
これで何度目だ?ただでさえ雨が嫌いなのに、俺の傘がない傘立てを見ると、農家の皆様には水不足で申しわけないが、雨が降らなければいいのにと強く思う。
今年だけで三回目。俺は何回濡れながら帰らなければならないんだ。
面倒くさいからとコンビニ傘で済ませる俺も悪いかもしれない。盗んだつもりはなく、自分の傘と間違えて持っていったのかもしれないが、ここまで俺の傘がなくなると、意図的に俺の傘を盗っているとしか思えない。
第一、もし間違えて俺の傘を持っていったのだとしたら、似たような傘が傘立てにあるはずだが、ここには見当たらない。
「恨まれるような事するほど、人と関わってないのになぁ…」
いつまでも傘立てを見ていても仕方ない。無いものは無い。気持ちを切り替えて近所のコンビニまでタイムアタック気分で走って帰ろうと会社の玄関を向いた時、俺の傘と似たような傘を持っている女性が目についた。
コンビニ傘なんだから似たような傘なんていくらでもある、が、どこか引っ掛かるものがあり、俺は駆け足でその女性に近づき、気付かれない距離を保ちながら傘を観察した。
黒一色の傘だったが、瞬間、俺は傘の持つところに大きな傷をつけた事を思い出し、女性が持ってる傘の手元を見た。
ある!大きな傷が!
「ちょ、ちょっと、それ。俺の傘なんだけど」
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