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僕は三十歳の誕生日になった。生まれたのが一週間だけ遅い妻、加奈が笑顔で帰宅を待っていた。
今年生まれたばかりの長男、颯太と、帰宅した僕の誕生日のお祝いをしてくれた。
加奈の手作りの丸いチョコレートケーキに、並べられたローソクに火をつけた。僕が吹き消す。
「あなた誕生日おめでとう」
「加奈、颯太ありがとう」
加奈が颯太の小さな手首を握る。拍手のまねをさせ、颯太は意味が分からなくても、楽しげだ。
去年までとは違う誕生日に、僕は上機嫌になってしまう。
「あなた、今年はケーキのほかにプレゼントはないけど……」
颯太が生まれ、事前に加奈と話し合ったのだ。お金のかかるプレゼントは、お互いにやめることにした。ダメ元で、ケーキをお皿に小分けする加奈にお願いしてみる。
「加奈は、大学時代バレー部所属だっただろう? 今日から一週間だけ、家ではバレー部のユニフォームで過ごして欲しいんだ」
ダイニングの明かりに照らされた、小柄な加奈から表情が、どんどん消えて行く。
「――なに言ってんの?」
「頼むよ。ねっ、大学時代のユニフォーム大事に取ってあるだろう? 家で着てくれよ」
加奈は困惑顔でケーキを食べている。颯太には、唇の端を上げているが、目が泳いでいる気がする。僕が「おいしい」と、ケーキやチキンの照り焼きを食べていた。
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