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「どっちの愛崎?」
ある日。またそんな声が聞こえた。
教室の出入口の近くに立つ、五十川くんだった。
誰か訪ねてきてる。相手は誰だろう。
つい耳をそばだてて聞いてしまう。
「どっちって……ほら、あの子。美人のさー」
来客は男子生徒だった。
『美人』……私ではない。愛崎さんだ。
最近、当たり前みたいに愛崎さんを指すときに『きれい』『美人』という。
そしてそれが当たり前みたいに伝わる。
私のときは絶対にないのに。
ああ。またみじめな気持ちだ。
「なにそれ。どっち?」
「どっちって……わかるだろ。ふたりの愛崎、全然違うじゃん。片方はキレイにしてっけど、違う方は……なあ」
「意味わかんね。別にどっちも普通じゃん」
(………!)
盗み聞きしているのも忘れて、思わず五十川くんを見やった。
黒い髪。細身の立ち姿。キリッとした切れ長の目。
なんだろう。
五十川くんのこと、初めてきちんと見た気がする。
「あの二人が一緒って…お前変わってんな。アンナだよ。茶髪の方」
「あ、そ。はじめからそう言えよ」
五十川くんは愛崎さんの近くまで歩いていき、彼女に声をかける。
指で出入口を指し示し、来客を教えた。
愛崎さんは軽くうなずき『どーも』と五十川くんの肩に軽くふれた。
その瞬間
今までで一番、胸が痛く、苦しくなった。
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