54人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
* * *
ベビーショップだけあって、男性用トイレにも、授乳・オムツ用のベビーベッドがあったのは、二人にとって幸いだった。義弥が選んだ粉ミルクを、義弥が選んだ哺乳瓶で、剛に含ませる。ずっとぐずっていた剛だが、義弥が言い当てた通り、勢いよく哺乳瓶に吸い付いた。っく、っく、と喉を鳴らして、あっと言う間に飲み終えると、今まで泣いていたのが嘘のように機嫌良く笑った。背中をトントンと軽く叩きゲップをさせるその間まで、ただ眺めている事しか出来なかった裕一だが、大慌てで作ったミルクのパッケージなどの後始末をする為に、
「ちょっと預かって」
と剛を渡され、途方に暮れたような顔になった。
「裕一、首を支えて。落とすなよ」
言われた通りにするが、何だか足元が覚束ないような、心細い心地になる。大抵の事は――特に夜――主導権を握っている裕一だからこそ、情けない表情で、ダァダァと笑う腕の中の剛を見下ろした。落とすなと言われても、力加減を間違えれば、折れてしまいそうに柔らかい。
「……あっ」
「どうしたの裕一?」
「生あったけぇ……」
「あ……じゃあ、オムツも買いに行かなきゃ」
「こ……これ」
「ごめん、重いだろうけど、オムツと着替えも選ぶから、ちょっと抱いてて」
「いや、軽いけどよ……」
日ごろ義弥を軽々とベッドまで運ぶ裕一だから、言葉通り、不安になるほど軽かった。そう、裕一は不安なのだ。覚えもないのに、いきなり『父親』役を任されて。その点、義弥は切り替えが早かった。
「グリーンが良いかな。淡い色なら、女の子でも着られるし……」
言ってから、クスリと笑った。
「あ、姉さんたちが、二人目のお下がりを考える癖が付いてる。俺たちには、二人目は出来ないよな」
「よく冷静でいられるな、義弥」
オムツが濡れた事で、またぐずり始めた剛を抱いて、裕一は不慣れに両腕を揺り篭代わりに僅かに揺らしていた。それを見ると、義弥は可笑しそうに笑った。
「大丈夫だよ、裕一。オムツを替えれば、また泣き止むから。赤ちゃんは泣くのが仕事だから、慌てなくて大丈夫だよ。……ふふ、何て顔してるんだ、君の方が泣きそうだな」
最初のコメントを投稿しよう!