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「好きな人を食べました」
「こんにちは、おまわりさん。俺は好きな人を食べました」
そう言って交番へやってきた男が、捕まった。
男の名は三島 健治。
元は大学の医学部に通っていた学生だが、半年程前に休学届を出していたようで、その後の詳しい情報は不明。
逮捕当時。
彼は安物のシャツとジーンズに血をべったりと付着させた、ひと目で異常とわかる姿だったのだ。何日もそのままなのか、酷い匂いをしていた。
止血と処置はされていたが左腕には鋭利なもので抉られた跡があり、三島は「抵抗された時に粗末なナイフで抉られた」と説明した。
警察が三島の言うとおりに彼の自宅へ向かったところ、そこにはほとんど骨だけになった男性の遺体があった。
遺体の名は、水野 高幸。
三島の証言によると、同棲していた幼馴染みであり、恋人でもある。
──水野は病を患っていた。
余命半年から一年と宣告され、ならばと治療を放棄し、共に暮らすささやかな幸せを三島と味わっていたという。
幼い頃から同じ施設で育った二人は家族であり、友人であり、恋人であったのだ。
水野が入院していた病院へ連絡すると、確かに〝水野 高幸は存在し、病を患い自由を選択した〟と返答が返ってきた。
そんな余命僅かな愛する人を自らの手にかけ、あまつさえ口にした三島という男。
腕の怪我が化膿し高熱を出した三島は、ひとまず病院へ運ばれた。
それでも三島は交番へやってきた時からずっと、気味が悪いほどの微笑みを浮かべて一切の抵抗もなく監視下におかれた。
──どうして恋人を食べたのか。
「俺は好きな人を食べました」
三島 健治は、ただ微笑むだけだった。
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