1人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
おばけねこ、もののけもののけ、おねこが通る
【一】
此処は「伏魔ご殿」という妖怪専用の旅館。働くものもひとならざる妖怪ならば、泊まるものもまたひとならざる妖怪ばかり。
ネコの手も借りたいほど忙しい伏魔ご殿では、犬神刑部という中年のタヌキが大旦那をしている。
「俺様が、この旅館の主だ。ここでは食器の一枚までが俺に従う。使えない奴はここの賄い料理にしてやる、食われたくなければ黙って俺様の指示に従うことだっ!」
従業員たちは、犬神刑部のこのひとことにつき動かれ、毎日忙しなく働いている。そんな中、一匹のネコマタが見習いとして入って来たが、ネコマタのおたまは見習い初日で後悔した。
「火が使えないなら、洗いものをやってくれ。水も駄目なら、せめて料理の味見しろよ。猫舌なら料理の味見も出来やしないだろう。厨房は無理だ、よそへ行きな」
「火も起こせない、濡れるのも出来ないなら風呂の係りは務まらないよ。悪いがほかを当たってくれ」
働く場所を求めて、おたまは職場を探すがことごとく門前払いをされてしまい、伏魔ご殿での居場所を失ってしまうが、犬神刑部は黙ってなかった。
「飯も駄目、風呂も駄目ならお前には賄い料理になってもらうしかねぇ。それが嫌なら、せめて客の接待でもやってみるんだな」
「お客さんの接待を、うちにしろと?」
「何も出来ないネコマタは、俺様がことごとく賄い料理にして喰ってやった。そうやって口答えするお前みたいな奴をな。口答えは一人前に仕事をできてから知ろってんだ」
「じゃけど大旦那さま、お客さんの接待、うち教わってないんじゃが、どうすればええんです?」
「どうすればいいか? 美味い飯と美味い酒を出して、お客さまをいい気分にさせればいいんだよ。その為には先ず厨房や風呂の奴らを纏めることが必要だ。これだから国内外来種は困るんだよ」
「す、すみません」
最初のコメントを投稿しよう!