エピローグ 最果ての約束

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* * * 「バンさん、どうですか? 似合う?」  茶色の髪のカツラをかぶり、鏡を覗き込んでいいたユリアが、  楽しげにこちらを振り返る。 「似合ってるよ」 「へへ、良かった」  明日出かけようというユリアを留め、  オレたちは入念な準備をした。  前回の旅行のようなことになるわけにはいかない。  ハルから、オレの弟たちが更に引っ越したことを聞き、  そこまでの最新の地図を手に入れ、ルートを確定した。  幸いなことに、弟たちの住む場所は地方都市で、  商人たちが治めている新しい町だった。  あっと言う間に月日は過ぎ去って、  やっとオレたちは念には念を入れた準備を完了した。 「それでは、行きましょう!」 「おう」  ……これが世話係として最後の旅だと思うと、感慨深いものがある。 * * *  所作の優雅さは隠しようがないが、  一見、普通であることが大切だ。  オレたちは道中何ひとつ問題に見舞われることなく、  地方都市・ビニエに辿り付いた 「賑わってるな」 「メティスよりも全然大きいですね……」  町をぐるりと取り囲む城塞は、メティスよりもずっと堅牢に見える。  中央には都庁舎がそびえ立ち、放射線状に色とりどりの屋根の住宅が並んでいる。  道には露店が建ち並び、客引きの声が行き交っていた。  メティスと違うのは、自警団だろうか、武器を携えた屈強な男たちが、  点々と立っていた。  かといって、彼らが威圧感を与えているわけではなく、  道行く人たちが彼らに声をかけ、また彼らも笑顔で答えている。  賑やかで、どこか人情味を感じる町だった。 「バンさん。こっちですよ」 「ああ」  ユリアが地図を片手に、案内をしてくれる。  デコボコした石畳を歩きながら、オレは複雑な気持ちで彼の後に続いた。  家族に会いたい、とは思う。  しかし、オレの存在は、昔の生活を思い出させてしまうんじゃないかと不安だった。  弟たちにとって、昔の生活は決していいものではなかったはずだから。  追い返されたのなら、それでいい。  だが、気を遣わせてしまったらと思うと尻込みする。 「バンさん! 着きましたよ!」 「あ、ああ」 「……あんまり、気が乗りませんでした?」 「いや、そうじゃなくて……」  顔を上げたオレは、目の前にそびえ立つ立派な屋敷に目を剥いた。 「い……いやいやいやいや、家凄過ぎだろ!?」  陽の光を照り返す、銀の門。  その向こうには、緑豊かな芝が広がり、  その向こうに物語に出てきそうな屋敷が建っている。  ユリアの屋敷と比べてしまえば小さいが、  それにしたって、まさか、こんな豪邸に…… 「奉公先、とかじゃねぇの……」  どう考えても、前払いの金額や月々の仕送りじゃムリだと思う。 「もしかして、金使い切っちまったとか……」  不安が胸に去来した。  しかし、理知的な弟がそんな馬鹿なマネをするとも思えない。  その時、庭仕事をしていた男がコチラに気付き、  品の良さそうな壮年の男が門へとやって来た。   「何かご用ですかな」 「キャンベンディッシュの者です。  お手紙で伝えたように、ダニエルさんに会いに来たんですが…」  ユリアの言葉に、紳士が目を見開く。 「……っ! 少々お待ち下さい!」  彼は慌ただしく踵を返した。  やがて、すぐに1人の背の高い青年を連れて戻ってきた。    ダニエル――1番上の、弟だ。 「兄さん!? バン兄さん!」
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