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プロローグ◇なつかしむには早すぎて
「最悪だ・・・」特に最悪なことがなくても最悪だ、というのは彼の口癖であったが。
何故こんなことになったのか、全く不可解であった。
ただ、彼は珍しい野草が生えていると言われたメル山に研究がてら師匠から『調査』名目のお墨付きをいただいて、観光していただけなのに。
途中、夜盗に襲われた女性を助けたのはいいが、それが夜盗の一員だったとは考えも及ばず、とにかく逃げて逃げて逃げて・・・・
「入り口から何で転送されてるんだ・・・・!」
叫んだ声は細い通路にこだました。
『シェル』旧世界の異性物が残したと言われた異物で、国の管轄である。とはいえ、数も多くまだ発見されていないものもあるため、一部は未管理状態のものもある。
それが、これ。外見は建物のようだが、種類によって異なる。
彼は入り口で夜盗をやり過ごすつもりだった。
ほんの、15分ほど仮眠をしたら、何故か廊下のような場所にいたのだった。
「最悪だ・・・」彼はまた呟いた。
シェルは異物である。特に、機能停止した『死んだシェル』ならともかく、『生きている』ものにお目にかかる機会はめったにないし、まず誰も近寄らない。
シェルは魂を食らうと言われているからだ。
しかし、それでも侵入者が後を絶たないのはシェルの中にある『スチル』という鉱物が高く売れるからである。
ともかく、この巨大な建物ー生き物から抜け出さなくては。
彼ーシロー・キール・タカセは故郷を懐かしみながら現実に向き合った。
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