121人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
【なにすんだっ】
「まぁ、落ち着けって。そろそろ焼けたかな」
カウンターにハリーを乗せ、ヒロはオーブンを覗く。
「よし、ちょっと待てよ」
ヒロはオーブンを開け、何かを取り出した。
(なんだ、なんだ?)
「メリークリスマス」
そわそわするハリーの目の前に差し出されたのは、生クリームが添えられた小さなチョコケーキだ。
そこへヒロはパラパラと粉砂糖を降った。
「粉雪舞うクリスマスのフォンダンショコラ、どうかな?」
(至高……!)
ハリーは我慢ならないとばかりに、スプーンを振り下ろした。
「熱いから気をつけろよ」
ヒロはがっつくハリーを見て笑っている。
しっとりチョコケーキの中からとろりとチョコソースが溶け出す。ショコラの甘い香りを余すことなく吸い込み、ハリーは幸せ気分に包まれた。
【甘さとほろ苦さが絶妙、濃厚でいて優しい味だ】
ハリーは舌の上で存分にチョコを味わっている。
「お褒めにあずかり光栄です」
自分以上に嬉しそうな顔をするヒロを見上げ、ハリーは言った。
【桜田にもちゃんとプレゼント用意してるんだろうな?】
思いがけない切り返しに、ヒロは少しばかり顔を赤らめる。
「まぁ、それは……、ハリーには秘密」
【はいはい、そうですか】
ハリーは、どうでもいいけどな、と適当に返事をした。
美味しいフォンダンショコラに満たされ気持ちよくなったハリーは、そのあと深い眠りに誘われる。というわけで、その夜、ヒロがどんなクリスマスを過ごしたのかは知らずじまいだった。
最初のコメントを投稿しよう!