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【騒がしいぞ!】
小動物は、ぐるっと身体を丸め、全身の針を立てて威嚇する。
――どうして、ハリネズミが?
ヒロが驚いていると、再びハリネズミは顔を出した。
「ゲージ開いてたのかしら? 寝ていたのに起こしちゃってごめんね」
絵麻はやさしく話しかける。
「え、君、ハリネズミの言葉が分かるの?」
ヒロが訊くと、「なんとなくですけど」、絵麻がまんざらでもなさそうな表情になる。
【人間においらの言葉が分かるわけないだろ。何言ってんだ】
ハリネズミが、ヒロを睨み付けてきた。
「え、こいつ、人間に言葉が分かるわけない、って言ったよ?」
「ふふっ。怒ってるんですよ。ハリーは夜行性ですから」
楽しそうに絵麻は答える。
「ハリネズミのハリーか、安易だな」
ヒロが笑うと、
【ハリー堀田なんて名前をつけたの、お前な!】
ハリーはますます怒りをあらわにした。
「ハリー・ホッタ? どっかの魔法使いみたいじゃないか」
【魔法使いは、お前な!】
「俺が、魔法使い?」
くくく、とヒロは腹を抱えた。
【そしておいらは、ヒロの使い魔のハリーだ。おまえ、頭どうかしちゃったのか?】
ハリーが呆れたように言った。すると。
――そうだ、ハリーは俺の使い魔だ。
また、記憶が蘇る。
ヒロは、ある法則に気づいた。自分は何かを忘れているようだが、すべてではない。なぜなら、鍋で頭をぶつけたことは覚えているし、ここがカフェであることも理解している。
――部分的な、記憶喪失?
記憶喪失という単語さえ、さらっと浮かんだ。
「店長、やっぱり変ですよ? 変っていうか、気持ち悪い……」
絵麻がヒロを警戒しはじめた。
「大丈夫だって。よし、話をまとめよう。俺は、店長の堀田。こいつが、ハリネズミのハリー。さしずめ、君は……、ハーマイオニー?」
「私は、バイトの桜田です」
「桜田さん……そうか、君は、ファミリア(使い魔)の桜田さんだ」
すっきりした笑顔で言うヒロに、ハリーは突っ込む。
【何度も言うが、桜田はただの人間だ!】
――そうか、ハリーと桜田さんは俺の使役なのか。
しかしヒロは、記憶の迷路をひたすら彷徨うだけだった。
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