707人が本棚に入れています
本棚に追加
/829ページ
長きにわたり生気を失っていた、その目が揺らいでいた。
何かを思い出そうとするかのように、惑うように泳いだ。
断末魔のような鴉の鳴き声があたりに響き渡る。
目をやると、中宮と瑠子のいた檜の枝の上に双頭の鴉の姿があった。
瑠子の瞳に小さく灯がともった。
――思い出させるわけにはいかなかった。
残る力を振り絞り、半身を起こし、震える腕で、わしの前に立った瑠子に手を伸ばした。
力岩の下に突き落とそうとした。
瑠子の衣の裾を掴んだその腕が震えている。
が、瑠子は、わしの怯えに気づくふうもなく、しゃがみ込み、袖の中から何かを取り出した。
差し出された手のひらには笹に包まれた餅が載っていた。
最初のコメントを投稿しよう!