第一章 船出

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第一章 船出

 東の大陸の港町、泉翔(せんしょう)。錨を降ろし、停泊した船の甲板で、ひとりの男が子供たちに剣の稽古をつけていた。  相手は二人。共に八歳の少年と少女である。  二人とも上半身がちょうど隠れるくらいの丈の立襟の上着と、動きやすい脚衣を身につけている。衣服の仕立ては同じだが、少年は濃紺、少女は鮮やかな紅と色だけが違っている。  男の名は勇仁(ゆうじん)。年は五十代後半といったところで、稽古をつけているのは彼の双子の孫たちだ。  勇仁は以前は水軍の(おさ)を補佐して采配(さいはい)をふるったものだが、今は半ば隠居の身で、孫たちの教育がもっぱらの生きがいとなっている。 「そら、脇が甘いぞ!」  打ち返されても、なお果敢に向かってくる三つ編みの少女が妹の梨華(りか)。まだ未熟だが筋がいい。
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