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「翌年祖母は他界して詳しいことは聞けずじまいでした。だから1年間で5人まで、というのは私が自分で決めただけ。むやみに使わないために自分で決めたルールなんです」
みずほ先生は若いのに、何か運命を背負っているようにみえた。人には言えない力を持っていることが逆につらいのではないだろうか。
「ねぇ。みずほ先生がひとつの幼稚園に長居が出来ないというのはそのチカラのため?」
みずほ先生はふと目線を落とすと、しばらくしてまた顔を上げた。
「噂って怖いですよ。あることないこと色々勘ぐられて、そのうち気味悪がられ、離れていく。園児と関わるのが好きだから、つい心の奥底と話をしてしまうのがいけないみたいです」
「でもみずほ先生は私には言っちゃったじゃない? 私はまだ生きてく勇気は失ってないけど。よかったの? そんな話をして」
「すみれ先生には色々お世話になっているし、何か力になれればと思って。でも結果によっては言わない場合もありますよ」
「どうして?」
「ーー選択肢の波動が弱い場合ですね。
たとえば高齢になるにつれ当然選択肢も少なくなりますし、寿命を教えるわけにはいきません。医者じゃないんだし。
それに年齢が若くても、この道に進むのがいい! っていう強い波動を感じなければ言う意味がないんです」
「じゃ、それこそ保育士なんてさ、年中こどもと手を繋いで大変じゃない? みんなの先が見えちゃうんでしょ?」
「あぁ、見ようとしなければ大抵は平気。ただアルトくんみたいに波動が強い場合、手を握っただけでウッと押されることがあるんです。私のほうが驚きました。たまにいるんです、そういう人」
「ま、とりあえず私は料理の先生ね! 頭に入れとく」
2人は笑いつつも、少し寂しげな表情を浮かべる。
あとから追加でデザートを頼み、2人は幼稚園のあるある話で盛り上がった。
「みずほ先生、今日はありがとう。色々勉強になった」
「すみれ先生も、いいお話いっぱい聞かせてくれて有難うございます」
駅前までは一緒に歩き、そこからはお互い別々の方向へ。みずほ先生はすみれより一足早くこの幼稚園を去っていった。
改札口へ続く階段を降りていくみずほ先生を、すみれは見えなくなるまでずっと眺めていた。
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