10-7

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 草の匂いがつんと鼻につく。  でもそれは嫌な匂いではなく、心を落ち着かせる匂いだった。  隣に寝そべるのは武。  週末、商店街を挙げて祝賀会を開くとことで、私と武は彼の実家に来ていた。何か手伝うことがないかと、時間早めにきた私達に弟の学くんは、二人で散歩でもしてきなよと家を送り出した。    しょうがなく、二人でぶらぶらと歩いていたら、武が来いよと私の手を掴んで走り出した。  そこはよく整備された公園で、綺麗に刈りそろえられた芝が広がっており、到る所に設置してある花壇には色とりどりの花が咲いていた。  週末ということで、遊び場には小さな子供達の姿が見える。  そんなにぎやかな公園で武は何を思ったのか、芝生に寝転んだ。  驚く私に隣で横になるように促し、私は恐る恐る芝生の上に横になる。 「いい匂い」 「そうだろう?」  隣の武は嬉しそうに、にやっと笑う。 「こうやって草の上に寝っ転がって空を見てると、なんか気持ちがすっとするんだ。まあ、時たま犬のフンとかあるから気をつけないといけないけど」 「嘘?!」  そんな匂いしないけど。 「冗談だよ。ここの芝生は犬の散歩が禁止されてるから大丈夫」  慌てて体を起こした私に武が笑う。  うわあ、優しい顔だ。  武もこんな顔できるんだ。 「何?」 「いや、そんな表情初めてみた」 「そうか?」 「うん」 「眞有。俺、父さんとかなり仲悪かったんだ。だから家を出た。だけど、この件があって、父さんに感謝されて、今までのこと謝られた。母さんが男と逃げて以来、父さんは母さんに似てる俺を見るのが辛かったらしい。嫌いじゃなくて、どう接していいかわからなかったみたいだ」  武はそう一気に言葉を吐き出すと、空に目を向ける。その瞳は涙で潤んでるように見えた。  そんなことがあったんだ。  それは初めて聞いた話だった。  だから、あの時、あんなにぎくしゃくしてたんだね。  でも、やっとお父さんと仲直りできたんだ。  よかった…… 「武。よかったね」   ごろんと芝生に横になり、武に寄り添うとその手に触れる。彼はびくっと体を揺らした後、ゆっくりと私の手を握り返した。  見上げる空には白い雲がぽっかり浮かび、ゆっくりと流れていた。  私達は二人でじっとその動きをみていたが、しばらくして急に武が体を起こした。 「眞有」  そして私を呼ぶと、その黒い瞳を向ける。 「眞有、本当にありがとう。俺、やっぱりお前とずっと一緒にいたい。だから、俺と付き合って」 「もちろん」  体を起こし、武を見つめ返す。  私はずっと武が好きだった。  でもその想いに蓋をしてきた。  気持ちを誤魔化して友達という関係でいいやと思っていた。  でも付き合ってみて、恋人と言う関係になり、彼がもっと好きになった。  迷ったこともあったけど、武のことがやっぱり好きだ。  彼は私の最高の男友達で、最高の恋人だと思う。 「眞有」  彼の端正な顔が私に向けられる。そしてぎゅっと抱きしめられた。  私の唇に彼の唇が重なり、その日、私達の関係は完全に友達から恋人になった。
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