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Chapter 1 可愛い後輩 1-1
「なんだ。久々に一緒に飲めると思ったら男の話か」
「そんなんじゃないわよ」
「でも気になるんだろう?」
「うん」
隣に座るのは大学時代の同級生――池垣(いけがき)武(たける)。
彼とは大学のときに友達の紹介で知り合った。
一目ぼれして、アプローチしたが、結局報われることはなかった。彼の好みは私とは真逆のタイプで、背が低く、女性らしい物腰、口数少ないが気遣いができるという、今では絶命の危機にある大和撫子だった。
「で、どんな男なんだ?」
「うーん。男っていうより男の子なんだけど」
「うわ。ショタか。犯罪だな。それは」
「失礼ね。二つ年下よ。ただすごく可愛くてさあ」
「可愛いって。男にいう台詞じゃないだろう」
「でも可愛いのよ。すごく」
「可愛い、可愛いって。男を可愛いって言い始めるのはおばさんの始まりだぞ?」
「うるさいわね~」
私はぎろっと武を睨みつける。
今年で二十八歳になり完全にアラサー入り。だけど、結婚どころか彼氏もいない。彼氏がいないのは私の性格に問題があるのはわかってる。
どうも、私は顔で好みを決めてしまう。
だから当然、両想いになることもない。
隣に座る武に対しても、大学のとき、その顔と立ち姿に一目ぼれしてしまった。
背は百八十センチを越えてる。嫌味にならないくらいに鍛えた体。短く切った黒髪にきれいに整えられた眉毛、目は一重だけどアーモンドの形で、爽やかないい男だった。
性格ははっきりいってだめだと思う。
こんな男と付き合う女は不幸になるぞという感じに遊び人だ。
私は運がよかったのか悪かったのか、彼の好みに入らず遊ばれずにすんだ。いわゆる純粋な女友達だ。セックスもないただの飲み友達。
大学を卒業して六年経つが、なんだかこうやって数ヶ月に一度は顔を合わせている。
「そういえば、あんたの彼女どうしたの?こうやって飲みに誘うということは振られた?それとも振った?」
「わかる? 今回は振られた。なんだかショックでさ。眞有(まゆ)に慰めてもらおうと思って」
「飲むのはいいけど、体はだめ。そういうの嫌なんだ。寝ると終わりでしょ。私達の関係」
「そうか?」
「そうよ」
私はそういって、テーブルの上のカクテルを煽った。
今気になる美少年、いや美青年が会社にいる。これも失恋確定だとわかっている。そういう想いを抱えながらも、私はいまだに武にほろ苦い想いを持っている。
でも絶対にばれないようにしている。
ばれたら最後、利用され、完全に彼のセフレ入りだ。
そういうのは嫌だ。
なんかアンフェアな気がする。
だから、彼とは単なる飲み友達を続けている。
「ちぇ。つまんないな」
「だったら、帰る。体を慰めて欲しければ別の友達呼べばいいでしょ」
「嘘だよ。眞有(まゆ)。飲もうぜ。な」
腰を浮かした私の腕を武が慌てて掴む。胸がどきっとするのがわかったが、必死に平静を装おう。
「だったら、今日はおごりね。よろしく」
「わかったよ……」
彼は憮然とした顔を一瞬だけ見せたが、肩をすくめるとそう言った。
「眞有(まゆ)~~。遅刻でしょ!」
母の言葉にはっとして目を覚ました。時計をみると午前八時。完全に遅刻だった。
昨日武に付き合ったら、夜中過ぎまでかかった。終電はもちろんなく、奴は私をタクシーで送ってから帰った。
頭が割れるように痛かった。でもそんなこと構ってられなかった。今日は新しい企画の最初のミーティングのある日だ。
気合を入れてベッドから起きると、急いで洗面所に向かう。
洗面所の鏡を見ながら昨晩のことを思い出す。
お酒が入り、武がどんどん危険な奴になっていったが、どうにか誘いをかわすことができた。あいつと寝ることだけは避けたかった。
ああ、でももう武と飲むのは限界かも。
最近会うたびに誘われることが多くなり、あいつが友達というよりもそういう関係を望んでいる気がしていた。
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