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01 アニリンの災難
俺は、酷い倦怠感の中、うっすらと双眸を開いた。
……どこだ?
ベッドどころか敷物すらない無機質なタイルの上。
その上、手枷・足枷が嵌められている。
だが、一番の問題はネックレスがペンダントごと剥ぎ取られていることだ。
父上と亡き母上の写真が埋め込まれたロケットペンダント。
俺のアイデンティティそのものと言って良い。
何故ならあれは……。
見慣れぬ室内。一筋の明かり。
状況を把握しようと頭を動かすが、ジクン、ジクンと蟀谷に脈打つ鈍痛が走るのみ。
そう、苛立ちが倍増していく、あのむかつく痛みだ。
これは、飲み過ぎた翌朝の感覚に似ている。
アルコールか、或いはドラッグの。
程なく吐き気が追いかけてくるだろう。
そのまま俺を置き去りに、どこかに去ってくれれば良いのに。
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