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場所:とある高校のトイレの中
時:昼休み終了間近
「…はあ…」
「どないしはったん?美和はん?」
「あ、美久さん…いやね、私の妹がようやく言葉をしゃべり始めたんだけど、自分のことを『ぼく』って言って、困っているんだよ」
「美和はんの妹はん、先月3歳になられはったんやったなあ…わても妹が欲しかったんやけど、一人っ子やさかい、ほんま、美和はんがうらやましい」
「でもねえ、美久さん、妹は女の子だよ。それなのに『ぼくにんじんきらい』なんて言って、パパやママを困らせているんだ。どうにかして自分のことを、『わたし』だとか『あたし』だとか言わせたいんだけどなあ…」
「それなら美和はんが妹はんに、『自分の真似をしてごらん』て言うたらどないでっしゃろ?」
「それは既に試してみた。でも妹は頑なに『ぼくはぼくだもん!わたしじゃないもん!』って言って、駄々をこねるんだよ。もう私もどうしたらいいものか…」
「そない気にすることはおまへんで。最近ではレズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダーの権利が、大幅に認められてますで。妹はんが自分のことを『ぼく』言うたかて、そないな理由で人を差別するのは、今後は法律違反になるで。わても京都出身で自分のこと『わて』言うもんやから、保育園の頃から『きもちわるい』言われてましたが、今後は一人称のことで人を苛めたら、苛めたヤツは先生からゲンコツ喰らいますがな」
「まあ、美久さんはそう言うけど、自分ちは家族全員保守的だから、特にパパなんて『女の子なのに自分のことを「ぼく」なんて言うんじゃない!』と怒って、妹が『ぼく』という言葉を使うたびに怖い顔をするもんだから、妹もすっかりパパのことを嫌うようになってしまったんだ」
「『三つ子の魂百まで』。3歳で自分のことを『ぼく』言うんやったら、100歳になるまでその癖は抜けへんで。美和はんも、そないなことをお父はんに話したらええ」
「そうかあ…『三つ子の魂百まで』か…なるほどね。じゃあ、そのことをパパに話して『妹が自分のことを「ぼく」と言っても、その癖は100歳まで抜けない』って話してみるよ。私も慣れればどうってことないだろうし…」
「まあ、漫画やアニメにも女の子やのに自分のこと『僕』やとか『俺』やとか言うキャラは、ぎょうさん出てくるで。高橋留美子の『うる星やつら』言う作品がええ例や。その中にも、今で言う『性同一性障害』キャラが登場しますやろ」
「ああ、その作品なら私も知っている。ええと、名前は確か藤波竜…竜太郎…だったっけ?」
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