Q ―鏑木―

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「ああ、準備はできてるよ。それより、クロス島に近付いて大丈夫なのか?撮影もNGなんだろう?」 「岸から500メートル以内は近づけませんけど、遠目から見る分には問題ないでしょう。テレビ局側もそれは確認してるはずですし、プロの運転手にお願いしてるんですから大丈夫ですよ!」 土方はまるで他人事みたいにそう言った。 クロス島の内部や周辺の様子は国民が一切知らされていない事であり、それに対する不安の声もある事から今回島周辺の様子を見に行くことが決まった。 もちろん島に足を踏み入れることはできないが、運よく人の姿でも見つけられたら番組は成立すると思っていた。 島に収容された人々がどんな生活をしていて、どんな罪の償い方をしているのか国民に知ってもらいたかっただけなのに、役場からはとにかく島に近付くことは危険だからやめてくれ…と、言われるだけだった。 確かに相手は犯罪者だ。近づけば何か危害を加えられるかもしれない。 しかし、それにしたって一方的に話を締めくくられて苛立ちを覚えたのは間違いなかった。 「今日は早く家帰って休むわ。明日頼むな」 鏑木は食べ終えたせんべいの袋を手のひらで握りつぶすと、ソファに置いてあったカバンを持って出口へと向かった。 ドアの横にあるゴミ箱に手の中のゴミを投げると、「じゃあ、お先」と言って部屋を後にした。
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