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「…というわけなんだ、ヒスン。あいつら、『平和を語れるのは日本人のみの特権』って思っていやがる」 「ふうん…」ヒスンは何時ものように、パソコンで株価のチェックをしながら応える。「ほ~ら、言わんこっちゃない。あの時、アバンは青臭い学生みたいに『「平和憲法」を有している日本人こそが、最も平和を語る資格がある』なんて言ってたけど、私に言わせりゃ『平和』という理念を語る資格が最もないのが『倭奴(ウェノム=日本人の蔑称)』っていう連中、それも、ウチナーンチュの言う『ナイチャー』なのよ。ウチナーンチュたちは、米軍基地が身近にあって、否応なく『戦争と平和』を考えざるを得ないけど、『ナイチャー』の連中のほとんどは基地と無縁で、勢い『戦争と平和』を意識せずに暮らしているからね。耽羅(タムラ=済州島の古称)人の私にとっては、朝鮮半島本土の連中もいけ好かないけど、日本人だって同じくらいいけ好かない。日本国民全員がノーベル平和賞を受賞して、『ギネスブック』に、『ノーベル賞受賞者数世界一』って登録されたら、今後は新手のヘイトスピーチがこの国に蔓延することになるわ」 「まあ、そういうことになるだろう。私もあの会の連中を見て、つくづく実感したよ」  ヒスンは、父親が土産に買ってきた唐揚げを楊枝で刺し、口に放り込んで応える。 「アバン、『平和』っていうのはね、日本人のみが独占していいものじゃないのよ。『平和を語る資格』っていうのは、耽羅人・韓国人・北朝鮮人・琉球人・アメリカ人・中国人・ロシア人・ドイツ人・トルコ人・アルメニア人・ユダヤ人・アイスランド人・ポリネシア人・エチオピア人・フツ人・ツチ人・スーダン人・イラク人・クルド人・カザフスタン人・コスタリカ人・キューバ人・ニュージーランド人・パレスチナ人・シリア人・カンボジア人・ミャンマー人・ベトナム人・ウィグル人・アメリカ先住民族…挙げればきりがないわね…まあ、とにかく、地球上の全ての人種・民族・国籍の人たち、そして共産主義を含む、あらゆる宗教を信仰している人たちに、平等に存在するのよ」 「…それだ!」  ヨンチョルは、ヒスンの言葉を聴いて膝を打つ。  翌日、ヨンチョルは店の営業が終了した後、何時も業務の管理に使用しているパソコンに向かって文書を作成した。更に、その文書をヒスンに英語に翻訳して貰い、ついでに3年前に購入したものの、使用せずに埃をかぶっている中国語翻訳ソフトを物置から取り出し、簡体字・繁体字に翻訳する。  そして彼は出来あがったハングル・日本語・英語・簡体字・繁体字の、飾り気の無いワードで作成した文書を、店舗のウィンドウに貼り出した。  その文書とは、以下のようなものである。 全人類にノーベル平和賞を! 20XX年、「憲法第9条」がノーベル平和賞を受賞しました。これにより全ての日本人(日本国籍を有する人々)が受賞対象となり、勢い日本は「ノーベル賞受賞者数世界一の国」となりました。しかし、日本人のみが「平和を語る権利」を独占してよいものでしょうか?「平和」は、日本人のみが独占すべきではありません。そして「平和の価値」を本当に理解しているのは、「戦場にて銃を担ぐ兵士」「軍需産業にて兵器を製造する労働者」「無慈悲に戦場に兵士を送り込む為政者」ではないでしょうか?ぬるま湯のような「平和」に首まで浸かっている人たちには、「平和」の価値や意味は理解しにくいでしょう。繰り返しますが、「平和」は一部の人間(日本人)が独占してよいものではありません。地球上の人種・民族・国籍・宗教・マジョリティ・マイノリティ・権力の有無・性別・職業・身分・障碍や疾病の有無、その他を問わず「平和」はあらゆる人間が自由に語るべきです。そこで私「松島(ソンド)洋菓子店」店主コ・ヨンチョルは「全人類にノーベル平和賞を贈る」ことを提案します。全人類がノーベル平和賞の受賞対象となったとしても、世界各地の紛争は簡単には無くならないでしょう。しかし全人類がノーベル平和賞を受賞した暁には、人々は「戦争の無い世界」へと近づく第一歩を踏みしめるはずです。是非とも皆さんのご協力のほど、よろしくお願い申し上げます! 日本人のみが独占する平和から全世界の人々の共有する平和へ!
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