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窓から差し込む淡い光に吸い寄せられるように藤澤美月は視線を上げると、緊張で引き結んでいた口元を綻ばせた。
春の風を受けてひらひらと舞い落ちる桜の花びらが、まるで新たな門出を祝福してくれているよう。
雲ひとつない青空に包まれた今日という佳き日を迎えられた誇らしさに、美月は感慨を覚えていた。
「では続きまして、弊社・新次世代事業開発室長、清宮浬より、新入社員に向けましてお祝いの言葉がございます。新入社員、起立」
真新しいスーツを身に纏った集団が一斉に起立する。その光景にハッとした美月は数秒遅れて腰を持ち上げると慌てて襟を正した。
「うわっ、あの人めちゃくちゃカッコイイ……」
どこからか聞こえてきた女性社員のうっとりとした声に、美月が反射的に壇上を見上げたそのときだった。
「……っ」
ガシャンと、まるでガラスの割れた大きな音が、肋骨の内側から響いた気がした。
――嘘……。
高い鼻梁に切れ長で大きな双眸。
彫の深い怜悧な顔立ち。
身長はさらに伸びたのか、遠目でもはっきりと分かる日本人離れした均整な体躯。
その非の打ち所のない男の美貌に、この場に居合わせた女性社員たちの意識は全員彼へと注がれている。
――どうして、彼がここに……。
「それでは清宮室長、よろしくお願いします」
声にならない悲鳴をあげたきり、美月はまるで金縛りにあったかのように動けなくなっていた。
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